Bruno Mars (ブルーノ・マーズ)という男が、単なる「歌の上手いシンガー」から「時代を象徴する無敵のエンターテイナー」へと完全に脱皮した瞬間。それが、2016年のアルバム『24K Magic』であり、その世界観を象徴する楽曲のひとつが「That’s What I Like」だ。
2017年1月30日にシングルカットされたこの曲は、単なるヒット曲の枠を超え、ラグジュアリーな遊び心と徹底した職人芸が同居する、現代R&Bの金字塔となった。
Bruno Mars – That’s What I Like (2016)
始まりは「地味なバラード」だった

驚くべきことに、この曲の原型は今のような軽快なダンスナンバーではなく、もっとスローで落ち着いたR&Bバラードだったという。
制作にはブルーノ自身をはじめ、フィリップ・ローレンス、クリストファー・ブロディ・ブラウン、ジェームス・ファントレロイ、そしてジョナサン・イップ、レイ・ロムルス、ジェレミー・リーブス、レイ・マッカラIIら、錚々たる面々が名を連ねている。プロデュースはブルーノ・マーズ率いる「Shampoo Press & Curl」と「The Stereotypes」が担当した。
制作の過程で、ブルーノ・マーズはこう漏らした。
「悪くない。でも、もっと体が動くような曲にしたいんだ」
その一言から、楽曲の骨格は劇的に作り替えられていく。ドラムの質感やリズムの跳ね方を何度も、それこそミリ単位で調整し、ゆったりとしたテンポの中に現代的なトラップ要素を注ぎ込んだ。この「職人的なこだわり」こそが、全米を揺らすあの絶妙なグルーヴを生んだのだ。
90年代への敬意と、2010年代の感性
「That’s What I Like」の音楽性は、極めてハイブリッドだ。 ベースにあるのは、ブルーノ・マーズが愛してやまない90年代のニュー・ジャック・スウィングやファンクの熱量である。そこにヒップホップ・ソウルやポップスのエッセンスを加えつつ、最新のトラップビートでパッケージングした。
結果として生まれたのは、「懐かしいのに、今この瞬間が一番新しく聞こえる」という魔法のようなサウンドだ。
歌詞に込められた「成金キャラ」の美学

歌詞を覗けば、そこにはまばゆいばかりのセレブリティ・ライフが並ぶ。
- マンハッタンの高級ペントハウス
- マイアミのビーチハウス
- ストロベリー・シャンパン
- シルクのシーツ
- プライベートジェット
これでもかと並べ立てられる贅沢品の数々は、一歩間違えれば鼻につく自慢話になりかねない。しかし、ブルーノ・マーズが歌うとそれが最高のエンターテインメントに昇華される。彼はここで、少し成金趣味で、けれど最高にチャーミングな「ショーマン」を演じきっているからだ。
「君には最高の時間を過ごしてほしい」という純粋な(そして少し過剰な)愛情表現。ブルーノ・マーズ自身、「これはちょっと笑える曲なんだ。楽しんで作ったよ」と語っているように、そこには確信犯的なパロディ精神とユーモアが溢れている。
視覚と聴覚をジャックする演出力

この楽曲の世界観を完璧なものにしたのが、ジョナサン・リアとブルーノ・マーズが共同制作したミュージックビデオだ。 あえて派手なセットを排し、モノクロの背景にブルーノのキレのあるダンスと、歌詞に連動した手描き風のアニメーションを融合させた。この「スケッチブックが動き出したような」遊び心あふれる演出はSNSでも爆発的な話題を呼び、世界中でダンスチャレンジが巻き起こった。
また、2018年のグラミー賞授賞式などの大舞台でのパフォーマンスも語り草となっている。ライブでの圧倒的な存在感は、この曲を「聴くもの」から「体験するもの」へと変貌させた。
音楽史に刻まれた圧倒的な数字

数字と評価が、その衝撃を裏付けている。
- 全米 Billboard Hot 100:第1位獲得
- 世界累計セールス:1000万ユニット近い規模を記録
- 第60回グラミー賞:最優秀R&Bパフォーマンス賞、最優秀R&Bソング賞を受賞
名実ともに2017年を代表するヒットとなった「That’s What I Like」は、『24K Magic』期のブルーノ・マーズの成功を決定づける存在となった。
色褪せないポップ・アンセム
「That’s What I Like」は、R&Bの伝統を重んじながらも、現代のポップ・ミュージックとして最高純度の答えを出した作品だ。
リリースから時が経っても、イントロが流れた瞬間にその場がラグジュアリーなパーティー会場へと変わる。ブルーノ・マーズという稀代のスターが仕掛けたこの「贅沢な魔法」は、これからも変わることなく、世界中のリスナーの身体を揺らし続けるだろう。
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