ジャスティン・ビーバーの「Beauty and a Beat」は、2012年にアルバム『Believe』からの第3弾シングルとして発表された、ニッキー・ミナージュをフィーチャーしたダンス・ポップ・チューンだ。この曲にサンプリング元は存在しない。その代わりに待っているのは、「もともと別人のために書かれた曲だった」という、サンプリング以上に数奇な生い立ちだ。そして2026年、この曲はジャスティンのコーチェラ出演をきっかけに14年の時を超えて世界チャートの頂点に舞い戻るという、誰も予想しなかった第二の人生を歩み始めている。
🎧 クイック概要:10秒でわかる基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| アーティスト / 曲名 | Justin Bieber feat. Nicki Minaj / Beauty and a Beat |
| 収録アルバム | Believe (2012) |
| 作曲・作詞 | マックス・マーティン、ゼッド(Anton Zaslavski)、サヴァン・コテチャ、ニッキー・ミナージュ(Onika Maraj) |
| プロデューサー | マックス・マーティン、ゼッド |
| リリース | 2012年10月24日(第3弾シングル) |
| 最高位 | 全米Billboard Hot 100 5位/カナダ 4位/世界40カ国以上でTOP10 |
| 2026年の記録 | コーチェラ出演後、Billboard Global 200・Global Excl. U.S.チャートで首位獲得(初リリースから約14年後) |
なぜこの曲に「元ネタ」がないのか——ゼッドが自分のために書いた曲だった

「Beauty and a Beat」を語るうえでまず押さえておきたいのは、この曲がサンプリング楽曲ではないという点だ。しかしその成り立ちは、既存曲を借用する以上に数奇な運命をたどっている。
もともとこの曲は、当時まだ新進気鋭のプロデューサーだったアントン・ザスラフスキー、つまりゼッドが、自身のデビューアルバム『Clarity』のために書き下ろした楽曲だった。ところがゼッドは、この曲の方向性が『Clarity』というアルバム全体のカラーに合わないと判断し、自分の手元に置いておくことをやめてしまう。
「曲は作ったけど、誰に渡せばいいのか分からなかった」とゼッドは振り返っている。行き場を失ったこのビートに目をつけたのが、ジャスティン側のスタッフだった。ゼッドのスタジオにいたジャスティンのA&Rがこの曲を耳にし、ジャスティンでの起用を持ちかけたのだ。ゼッドはこう続けている。
「ジャスティンが最初だった、というか彼のスタッフが連絡してきたんだ。曲を聴いて『お願いします、試させてください』と言われた」
行き場のなかった1曲が、世界的ヒットの入口に立った瞬間である。
マックスが歌メロを構築、そしてサヴァンへの一本の電話

ゼッドから曲を託されたのは、スウェーデン出身の名プロデューサー、マックス・マーティンだ。ゼッドはインストゥルメンタルをマックスに送り、そこにマックスがボーカルメロディを構築していく。
この過程で欠かせなかったのが、ブリトニー・スピアーズやワン・ダイレクション、ケイティ・ペリーなど数々のヒット曲を手がけてきたソングライター、サヴァン・コテチャの存在だ。サヴァンは2026年、この曲が生まれた瞬間をこう振り返っている。
「マックスから電話がかかってきて、アイデアに手を貸してほしいと言われたのを覚えている。彼がそれを送ってきたのも覚えてるよ」
当時サヴァンは母国スウェーデンに帰っていたタイミングだったという。海を越えたやり取りの中で、曲は少しずつ形になっていった。
そしてジャスティン自身がこの曲を歌う段になると、マックスはそのボーカルにいたく感心したようだ。アルバム『Believe』制作中に公開されたメイキング映像の中で、スタジオでジャスティンの歌を聴いたマックスはこう漏らしている。
「お前の歌、本当にいいよ。感心した」「これは特別な曲になる気がする。俺は簡単には満足しない人間なんだけどね、信じられないかもしれないけど」
普段は妥協を許さないことで知られるヒットメーカーからの称賛は、当時のメディアでも話題になった。
幻に終わったアッシャー起用——ニッキーはこうして選ばれた

「Beauty and a Beat」を語るうえで欠かせないもう一つの裏話が、フィーチャリング人選をめぐる急転直下の展開だ。
実は制作陣が当初この曲のゲストとして想定していたのは、ニッキー・ミナージュではなくベテランR&Bシンガーのアッシャーだった。当時ジャスティンのマネージャーを務めていたスクーター・ブラウンは、この裏話を明かしている。
「ニッキーは別の曲に参加する予定になっていて、そのあと僕らが『Beauty and the Beat』を作った。彼女がそれを聴いて、『私もこの曲に乗りたい』と言ってきたんだ。実を言うと、最初はアッシャーを起用する予定だった。でもニッキーのヴァースを聴いて、僕らは『これはヤバい』ってなったんだよ」
※スクーター自身、正式タイトルの「a Beat」ではなく「the Beat」と言い間違えているが、これは実際の発言どおりに引用している。
ニッキーが自らこの曲に強い興味を示したことで、当初の起用プランが覆るという、いかにも彼女らしいエピソードだ。ジャスティン自身もこの人選についてインタビューで理由を語っている。
「女性ラッパーを迎えたかったんだ。そして彼女がベストな選択だと思った。この曲にぴったりハマると感じたから」
こうして、まだ10代だったジャスティンと当時ヒップホップ・シーンの頂点に君臨していたニッキーという、一見異色に思える組み合わせが実現した。ちなみにニッキーは自身のヴァースの中で、当時ジャスティンの恋人だったセレーナ・ゴメスの名前をもじった小ネタを忍ばせている一節があり、ファンの間で長年話題にされてきた。
なお、この曲はアルバム『Believe』の中で唯一、ジャスティン自身が作詞作曲にクレジットされていない楽曲でもある。歌詞そのものは「クラブへ行って朝まで一緒にいよう」というごくシンプルなラブソングで、遠い未来の年号を持ち出してフロアの高揚感を歌い上げる、遊び心のある一節も含まれている。
ジャスティン自らが企画したMV──「盗まれた3時間の映像」というフィクション

「Beauty and a Beat」のミュージックビデオは、ジャスティン自身がストーリーを考案し、のちに『クレイジー・リッチ!』や映画版『ウィキッド』を手がけることになる監督ジョン・M・チュウと共同で演出した作品だ。
映像の冒頭にはこんなテロップが表示される。「2012年10月、ミュージシャンのジャスティン・ビーバーから3時間分の個人的な映像が盗まれた。この映像は匿名のブロガーによって違法にアップロードされたものである」——これはフィクションとして構成された設定であり、ジャスティンが実際にラップトップとカメラを盗まれたと語っていた当時の騒動を下敷きにした、いわば「盗撮風」の演出だ。
撮影が行われたのは、ロサンゼルス近郊サンディマスにある巨大ウォーターパーク「Raging Waters」。プールサイドでのダンスパーティーと、水中でニッキーがヴァースをラップする印象的なシーンは、すべてこの場所で撮影されている。撮影の大半はGoPro Hero 2で、一部はOlympus Tough TG-1で収められたという、当時としてはかなり実験的な撮り方だった点も興味深い。国際的なシンクロナイズドスイミングチーム「Aqualillies」も出演している。
2012年10月12日に公開されたこのMVは、公開から24時間で1,060万回再生を記録。当時ワン・ダイレクションの「Live While We’re Young」が持っていたVEVO記録(824万回)を塗り替え、新記録を樹立した(この記録は半年後の2013年4月、PSYの「Gentleman」が2,250万回を叩き出したことで更新される)。2026年4月時点での累計再生回数は12億回を突破しており、10年以上経ってなお視聴され続けているロングセラー映像だ。
リリース直後の記録——全米5位、40カ国以上でTOP10

「Beauty and a Beat」はリリース直後から強い反応を示した。ダウンロード数だけで全米Billboard Hot 100の72位に初登場し、その後MVの公開を経て順位を大きく押し上げ、最終的に自己最高位である5位まで上昇。カナダのSingles Chartでは4位を記録し、世界40カ国以上でTOP10入りを果たしている。
2012年12月11日には12種類のリミックスを収めたリミックス・アルバムもリリースされ、クラブシーンでも息の長い支持を集めた。この曲はジャスティンとニッキーにとって、American Music Awardsでの初共演をはじめ、2012年のVictoria’s Secret Fashion Show、そして2015年のWango Tangoでも披露されており、ニッキー自身も自らのツアー「Pink Friday: Reloaded Tour」の一部公演でこの曲のヴァースを披露するなど、両者のキャリアを象徴するコラボレーションのひとつとして扱われ続けてきた。
2026年、コーチェラが呼び起こした14年越しの逆襲

「Beauty and a Beat」の物語は、ここで終わらない。むしろ本当の意味でのクライマックスは、リリースから実に14年後、2026年に訪れることになる。
前兆はさらに以前からあった。2024年12月には、この曲がSpotifyの累計10億回再生達成曲だけが名を連ねる「Billions Club」入りを果たしている。これはジャスティンにとって17曲目、ニッキーにとっては6曲目のBillions Club入りとなる節目でもあった。そして2025年7月、Bieberが突如リリースした7作目のアルバム『Swag』をきっかけに、彼の過去のカタログへの注目が再燃。「Beauty and a Beat」もGlobal Spotifyチャートに131.2万回再生で144位に再エントリーした。この動きにニッキー自身が反応し、チャートデータを報じた投稿に対して「Justiiiiiiiiiiiiiiiin(ジャスティーーーン)」と一言だけリツイートで返したことも、ファンの間で話題になった。
しかし本当の転機は2026年4月11日、ジャスティンが自身初となるコーチェラのヘッドライナーとして出演したことだった。彼にとって2022年の「Justice World Tour」中止以来、初めてのフルスケールのアメリカ公演でもあった。90分のセットのうち序盤は最新アルバム『Swag』『Swag II』の楽曲を披露したが、その後、ノートパソコンを持ち出しYouTubeで自身の過去曲のクリップを再生しながら観客とやり取りするという、即興性の高いインタールードのコーナーを設けた。そこで流された曲のひとつが「Beauty and a Beat」だった。
この瞬間の反響は凄まじいものだった。Billboardによれば、コーチェラ初日を含む週(4月10日〜16日)だけでジャスティンのカタログ全体のストリーミング数は1億6,020万回に到達。前週比172%増という急騰ぶりで、その中でも「Beauty and a Beat」は前週比317%増の1,030万回を記録し、伸び幅トップの楽曲となった。4月16日にはChartdataの集計でApple Musicのグローバル・シングルチャートで史上初めて1位を獲得。Spotifyのグローバル・デイリーチャートでも4月12日だけで120万回再生(前日比76%増)を記録し、その日の『Swag』以外の楽曲の中でトップの伸びを見せた。
勢いはその後も止まらなかった。まず4月10日〜16日の週の集計(4月25日付チャート)では、Billboard Global 200で4位につけた。続く4月17日〜23日の週には、アメリカ国外だけで6,540万回のストリーミングを記録(前週比93%増)し、Billboard Global Excl. U.S.チャートで初の首位を獲得。この結果、ジャスティンは自身3度目となる同チャートでの首位を手にしている。そしてさらに翌週(4月24日〜30日、5月9日付チャート)には、Global 200でもついに首位を奪取した。ストリーミング数自体は前週比13%減の6,960万回だったにもかかわらず、他曲の勢いが落ち着いたことで「世界で最も聴かれている曲」の座に上り詰めたのだ。
イギリスでも同様の動きが起きた。Official Singles Chartでは、2012年当時の自己ベストである16位を大きく更新し、週間358%増という急上昇を記録。13年ぶりとなるチャート再入りを果たし、11位でチャートインした。その後さらに順位を上げ、4月30日付週には2012年の初動を超える自己新記録・3位まで到達している。この期間、ジャスティンのカタログからは「Daisies」や「Baby」もBillboard Global Excl. U.S.チャートのTOP10入りするなど、まさに「ビーバーチェラ(Bieberchella)」と呼ぶにふさわしい全方位的なリバイバルが巻き起こった。
この現象はイギリスやアメリカにとどまらなかった。ドイツのOfficial German Chartsでは、4月24日〜30日の週にジャスティンにとって自身3度目のドイツ国内1位を獲得。オーストラリアのARIAチャートでも4月27日付で5位に達し、6週間にわたってTOP10圏内にとどまるロングランを記録した。14年前の楽曲が、世界各地の複数の国で同時多発的にチャートを賑わせるという、ストリーミング時代ならではの現象が起きたのである。
作詞者の一人であるサヴァンは、この現象についてBillboardの取材にユーモアを交えてこう語っている。コーチェラ会場にいたのか尋ねられたサヴァンは、
「いや、僕は年を取りすぎてて魅力もないから、コーチェラにいる柄じゃないよ(笑)」
と冗談を飛ばしつつ、曲がチャートを駆け上がっていく様子をこう振り返った。
「みんなと同じように、僕もスマホ中毒でね。朝起きて最初にやるのはドゥームスクロール。そうしたら(コーチェラの)クリップが流れてきて、『ああ、面白いな』と思ったんだ。その2日後には世界チャートで3位になっていて、マックスに『見てくれよ、これ!』って送ったのを覚えてる。そしてその翌日には1位になっていた。もう最高にクレイジーで、最高に楽しかったよ」
さらにサヴァンは、この曲が新しい世代にどう届いているかについても興味深いコメントを残している。自分の子どもたちがこの曲を「新曲だと思っている」というのだ。14年前に生まれたこの曲が、当時を知らない若いリスナーの耳にはまったく新鮮な1曲として届いている——そんな世代を超えた現象が、まさに今起きている。
まとめ:一度は手放された曲が、14年かけて世界一になった
「Beauty and a Beat」は、ゼッドが自分のアルバムに合わないと判断して手放し、アッシャーではなくフィーチャリングを熱望したニッキーの手に渡り、マックスとサヴァンという名うてのヒットメーカーコンビによって磨き上げられた曲だ。誕生の経緯だけを見ても、いくつもの偶然と決断が積み重なって完成した1曲であることがわかる。
そして2012年に全米5位、世界40カ国以上でTOP10を記録したこの曲は、リリースから14年の時を経て、ジャスティンの2026年コーチェラヘッドライナー出演というまったく別の文脈の中で、再び世界の頂点に躍り出た。サヴァンが「まるで新曲みたいだ」と語ったように、この曲は今もなお、新しい世代のリスナーの耳に「発見」され続けている。
一度は行き場を失った曲が、10年以上の時を超えて世界一のヒットソングに返り咲く——「Beauty and a Beat」の物語は、ポップミュージックというものが決して過去のものにならないということを、何よりも雄弁に物語っている。


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