Mariah Carey『Emotions』5作連続1位の裏側と真実

R&B / Neo Soul
R&B / Neo Soul1990年代
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Mariah Careyの「Emotions」は、1991年にリリースされたR&B/ディスコ・ポップの名曲だ。The Emotionsが1977年に発表したディスコの古典「Best of My Love」から強いインスピレーションを受けており、曲の類似性をめぐってEarth, Wind & FireのMaurice Whiteが著作権侵害(盗作)を主張、後に示談で決着している。Billboard Hot 100で3週連続首位を獲得し、デビューから5曲連続で全米1位という史上初の記録を打ち立てた、Mariahのキャリアを象徴する一曲だ。

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🎧 クイック概要:10秒でわかる基本データ

項目内容
アーティスト / 曲名Mariah Carey / Emotions
収録アルバム『Emotions』(1991年)
インスピレーション源The Emotions – 「Best of My Love」(1977年)
最高位米Billboard Hot 100 1位(3週連続)
米Hot R&B/Hip-Hop Songs 1位
米Hot Dance Club Play 1位
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「Emotions」はどんな曲か

ゴスペルとR&Bを土台に、1970年代のディスコを現代に召喚したようなアップテンポのポップソングだ。愛する相手に心を揺さぶられる高揚感を、Mariahの圧倒的な声域——特に「ウィッスル・レジスター」と呼ばれる超高音域——で歌い上げる構成になっている。

イントロからポップなビートが弾け、サビに向かうにつれてMariahのボーカルは上昇していく。終盤に飛び出す約11秒のウィッスル・アルペジオにおいて、彼女はB2からG7という、4オクターブ半以上にまたがる驚異的な音幅をこの1曲の中で体現してみせた。Stereogumはこの曲を「シャンパンのように弾ける(hits like champagne)」と形容している。

歌詞は、愛する相手に出会い「これまで夢にも見なかったほど深い感情(deeper than I’ve ever dreamed of)」「天よりも高い感情(higher than the heavens above)」を感じるという、シンプルかつストレートな恋愛の高揚感を描いている。曲の基本キーはCメジャー。ライブではB♭メジャーに移調されることが多く、伝説的な『MTV Unplugged』版もその一例である。

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背景:The Emotionsの「Best of My Love」(1977年)との関係

「Emotions」のビートとメロディーが強く影響を受けているのが、The Emotionsの1977年のヒット曲「Best of My Love」だ。Earth, Wind & FireのMaurice WhiteとAl McKayが書き下ろしたこの曲は、全米ポップおよびR&Bチャートの両方で首位を制した。

Maurice Whiteは自著の中で、同曲の誕生を振り返っている。Al McKayが作っていた遅いテンポのデモを、数週間後にテンポを上げて聴き直した瞬間、「バン!」と閃いたという。「シカゴのスウィングがあり、リズムギターの跳ねる感じがあり、ゴスペル的な高揚感がある——絶対に来ると確信した」。

アップテンポのビート、ブラスセクションの鮮烈なイントロ、そしてリードボーカルのWanda Hutchinsonが披露するゴスペル風のランといった要素は、そのまま「Emotions」のサウンドの骨格となった。Rolling StoneのRob Tanenbaumは、制作陣が「Best of My Love」やCheryl Lynnの「Got to Be Real」のコードを「恥知らずにリサイクルして(shamelessly recycle)」新時代のディスコを作り上げた、と指摘している。

The Emotionsの「Best of My Love」の記事はこちら。

The Emotions「Best of My Love」元ネタ解説|サンプリング曲・イーグルスとの違い・Mariah Careyとの関係まで
1977年の名曲、The Emotions「Best of My Love」を徹底解説。Maurice White(Earth, Wind & Fire)のプロデュース背景、Billboard1位の記録、Wanda Hutchinsonのファルセット、De La SoulやMariah Careyなどへのサンプリング影響、イーグルスの同名曲との違いまで詳しく紹介。

紛争:「曲ごと盗んだ」——Maurice Whiteの主張

「Best of My Love」の作者の一人であるMaurice Whiteは、「Emotions」のリリース後、Mariah CareyとC+C Music Factory(プロデュース・チーム)を相手取って訴訟を起こした。Whiteはその主張をSpin誌にこう語っている。

「サンプリングというのは手法の一つだ。だが、彼女は曲をまるごと持っていった」

裁判は法廷での判決に至る前に示談で終結し、Whiteは金銭的な和解を受け取ったが、公式な作曲クレジットには今も彼の名は記載されていない。

一方で、プロデューサーのDavid Coleは、著書『The Billboard Book Of Number 1 Hits』の中でこう証言している。

「Robert(Clivillés)とMariahが、別々にあのグルーヴを思いついていたのが面白かった。彼女もRobertも、The Emotionsに近い何かをやりたいと言っていた。彼らがこの曲のインスピレーションであることは否定できないが、俺たちはまるごとパクるほどバカじゃない」

また、曲名の由来についても興味深い説がある。プロデューサーと親交のあったCarl Sturkenは、Songfactsのインタビューで、「C+Cがデモテープを作った際、The Emotionsのリファレンスであることを示すためにファイル名を『Emotions』とした。Mariahがそのラベルを見て、そのまま曲名にしたはずだ」と推測している。

制作秘話:Tommy Mottolaが引き合わせた異色のコラボ

「Emotions」の制作は、Sony Musicの当時のトップ、Tommy Mottola(トミー・モトーラ)の提案から始まった。1991年当時、Robert ClivillésとDavid ColeのC+C Music Factoryは「Gonna Make You Sweat (Everybody Dance Now)」の大ヒットで飛ぶ鳥を落とす勢いだった。

当初、Mariahはハウス・ミュージックのプロデューサーとのタッグに懐疑的だったが、David Coleのピアノの才能を目の当たりにして意気投合した。最初のセッションで完成したのは「You’re So Cold」だったが、2度目のよりリラックスしたセッションで「Emotions」が誕生。その瞬間、全員がこちらをリードシングルにすべきだと確信したという。

David ColeはMariahのボーカルを限界まで引き出した。Mariahは2018年のPitchforkのインタビューで、「彼は私が今まで試していない場所へどんどん引っ張っていった。『これができる、やってみろ』と言い続けた結果があの曲。半分ぐらいの確率で、その後には声をつぶしていたけれど」と振り返っている。

ウィッスル・レジスターの覚醒:1991年のMTV VMAでの証明

「Emotions」は、Mariahの代名詞である「ウィッスル・レジスター」を世界に知らしめた決定打となった。1991年9月5日のMTV Video Music Awards(VMA)で、彼女はこの曲をライブ初披露した。

前年にMilli Vanilliの口パクスキャンダルが発覚したばかりで、「Mariahのあの高音はスタジオの加工ではないか」という疑念の目が向けられていた。しかし、VMAのステージで彼女はウィッスル・アルペジオを含む全パートを完璧に生歌で披露。翌1992年の『MTV Unplugged』でのパフォーマンスと合わせ、「スタジオの産物」という批判を完全に封じ込めた。

Billboard記録:史上初、デビューから5曲連続全米1位

「Emotions」は1991年10月12日にBillboard Hot 100の首位に到達。これによりMariahは、デビューから5曲連続で全米1位を獲得した史上初のアーティストとなった。それまでの記録はThe Jackson 5の4曲連続(1969〜1970年)であり、彼女は20年ぶりにその壁を塗り替えた。

なお、続く6作目「Can’t Let Go」は全米2位にとどまり、記録は「5」で途切れた。しかし、この短期間での連続首位獲得は、彼女が単なる「バラード歌手」ではなく、ダンス・ナンバーでもチャートを支配できる多才なアーティストであることを世界に証明した。

後世への影響:Drakeによるサンプリングと現代の評価

2018年、Drakeがアルバム『Scorpion』の収録曲「Emotionless」で、この曲の「12″ Club Mix」のイントロ(ゴスペル調のウィッスル)をサンプリングしたことで再び脚光を浴びた。これに対しMariahは、SNSで炎の絵文字を投稿し、公に賛辞を送っている。

また、2024年に配信されたドラマ『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』の劇中やプロモーションでも使用されるなど、リリースから30年以上を経ても、その鮮やかなサウンドは新しい世代に届き続けている。

まとめ

「Emotions」は、1970年代のディスコへの敬意、1990年代初頭のハウス・ブームの熱気、そしてMariah Careyという類まれな才能の「証明」が凝縮された一曲だ。法廷での係争や制作現場での壮絶なボーカル・セッションといった数々のドラマを内包しながらも、聴く者の心を弾ませる軽やかさを失わない。あのウィッスルが響き渡る瞬間、私たちは今も変わらず、音楽がもたらす純粋な「高揚感(Emotions)」を体験するのである。

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