2004年にキャリアをスタートさせたFreddie Gibbs (フレディ・ギブス)は、2004年に初のミックステープ「Full Metal Jackit」をリリースし、その後も10本以上のミックステープをセルフリリースしながら徐々に知名度を広め、2010年にはXXLの「Freshman Class」に選出されます。
翌年、ミックステープ「Cold Day in Hell」(2011)をリリースし、多くのメデイアに取り上げられ、2011年にJeezy率いるレーベルCTE Worldと契約を結ぶも、2012年末に脱退を発表。
その後、自身のレーベルESGNを立ち上げ、2013年にレーベル名を冠したデビューアルバム「ESGN」をリリース。
翌年にはMadlibとコラボアルバム「Piñata」(2014)をリリースし、2019年にはアルバム「Bandana」で再共演したほか、2020年のThe Alchemistとのコラボアルバム「Alfredo」はグラミー賞「最優秀ラップアルバム」にノミネートされ、大きく注目を浴びました。
これまでにソロアルバムを3枚リリースしていた彼が、2022年に待望の4枚目のアルバム「$oul $old $eparately」をドロップ。
ここでは、このアルバムと元ネタ・サンプリングされた曲について解説します。
アルバム情報
Freddie Gibbs (フレディ・ギブス)
出身地 :インディアナ州ゲーリー
生年月日:1982年7月14日
ジャンル:Hip Hop
レーベル
Warner Records
ゲストアーティスト
Anderson .Paak
DJ Paul
Kelly Price
Moneybagg Yo
Musiq Soulchild
Offset
Pusha T
Raekwon
Rick Ross
Scarface
フレディ・ギブスがアルバムについて語る
新天地Warner Recordsからのリリースされたこのアルバムには、40歳を迎えた彼のキャリアの中でも特に豪華なゲストアーティストが名を連ねています。
このアルバムについて、長年に渡ってラップゲームに参加してきたFreddie Gibbsは新たなステップを踏み出したようで「賞賛、賞、お金、そのすべてを集める時だと思うんだ」と語っています。
音楽で本当にやりたかったことは、すべてやった気がする。 今はただ収集する時期だと思うね。 賞賛、賞、お金、そのすべてを集める時だと思うんだ。 特にこのプロジェクトには相当な労力を費やしたと思っている… 俺と同じ世代、同じ年齢層で、俺と同じように長く一貫してやっている人はそう多くない。 俺は今、レブロンみたいなもんだよ。
また、2021年公開の映画「Down With the King」では、音楽業界と有名人としてのプレッシャーに幻滅したラッパーが、都会とキャリアを捨て、小さな町の農村に身を置くというストーリーで主演を務め、多くのファンを驚かせました。
新しいアプローチで、ラッパーとして、また1人の人間として彼らを魅了してきたFreddie Gibbsは「生涯のファンになってもらわなければならない」と語り、アルバムだけでは伝えきれない人間的な側面も知ってもらいたいと考えているようです。
俺が好きなラップアーティストはみんな、俺にとってはアクションフィギュアやキャラクターのようなものなんだ。 彼らはキャラクターを作り上げ、俺はそれを買うね。 でもそれは俺もやらなければならないことだと感じているんだ。 1曲だけとかではなく、生涯のファンになってもらわなければならないと思うから、受け入れなきゃいけない気がするんだ。 全体的なオーラを感じてもらわなければならないんだ。 ストリーミングで聴ける曲のプレイリストを提供するだけでは不十分だから、今回の展開はとても重要なんだ。
“Couldn’t Be Done” 元ネタ・サンプリング
Freddie Gibbs feat. Kelly Price – Couldn’t Be Done
Norman Feels – They Said It Couldn’t Be Done (1973)
アルバム1曲目を飾り、Kelly Priceをフィーチャーした「Couldn’t Be Done」の元ネタは、ニューヨーク出身のシンガーNorman Feelsの「They Said It Couldn’t Be Done」(1973)です。
この曲は彼の名を冠したアルバム「Norman Feels」(1973)に収録され、NasやHavocなどのラッパーもサンプリングしています。
“Blackest in the Room” 元ネタ・サンプリング
Freddie Gibbs – Blackest in the Room
Michel Ripoche – Mirage (1975)
アルバム2曲目でThe Alchemistがプロデュースした「Blackest in the Room」は、フランス出身のヴァイオリニストMichel Ripocheの「Mirage」をサンプリングしています。
Michel RipocheはフランスのバンドZooのメンバーで、同グループで4枚のアルバムを発表後、1975年にソロデビューアルバム「Equinoxe」(1975)をリリース。
この曲は、このアルバムに収録されており、その後も1987年までに4枚のアルバムをリリースしています。
“Pain & Strife” 元ネタ・サンプリング
Freddie Gibbs feat. Offset – Pain & Strife
Bone Thugs-N-Harmony feat. Eazy-E – Foe Tha Love of $ (1994)
Offsetをフィーチャーした「Pain & Strife」の元ネタは、ラップグループBone Thugs-N-Harmonyの「Foe Tha Love of $」(1994)です。
Bone Thugs-N-HarmonyはEazy-EのRuthless Recordsと契約後、EP「Creepin on ah Come Up」(1994)でメジャーデビューを果たしました。
このEPに収録され、DJ Yellaがプロデュースしたこの曲は、ラップソングチャート4位を獲得し、グループにとって大きな成功となりました。
またMVは、ゲスト参加したEazy-Eが生前最後に出演した作品としても知られています。
“Zipper Bagz” 元ネタ・サンプリング
Freddie Gibbs – Zipper Bagz
Hareton Salvanini – Viver (1973)
KAYTRANADAがプロデュースした「Zipper Bagz」の元ネタは、ブラジルの出身のアレンジャーHareton Salvaniniの「Viver」(1973)です。
この曲は、Hareton Salvaniniの兄弟Ayrton Salvaniniと共に書いた最初のLP「S.P. 73」(1973)に収録されています。
“Lobster Omelette” 元ネタ・サンプリング
Freddie Gibbs feat. Rick Ross – Lobster Omelette
Gene Harris – Summer (The First Time) (1974)
Drake、J. Cole、DJ Khaledなどを手掛けるJake Oneがプロデュースした「Lobster Omelette」は、ミシガン州ベントンハーバー出身のジャズピアニストGene Harrisの「Summer (The First Time)」(1974)をサンプリングしています。
Gene Harrisは1956年にグループThe Three Soundsを結成し、ジャズレコードレーベルBlue Note Recordsと契約後、1958年から1962年にかけて9枚のアルバムをリリース。
ここで多くのファンを獲得することに成功したGene Harrisは、1974年にソウルやファンクの影響を受けて制作されたアルバム「Astral Signal」をリリース。
「Summer (The First Time)」はこのアルバムに収録され、またChicagoの「Beginnings」のカバーも収められており、Gene Harrisがリードボーカルとして聴くことができる数少ない作品のひとつで知られています。
Gene Harris – Beginnings
Chicago – Beginnings
“Space Rabbit” 元ネタ・サンプリング
Freddie Gibbs – Space Rabbit
Christine Perfect – And That’s Saying a Lot (1970)
Boi-1da、Jahaan Sweetらがプロデュースし、MVも公開されている「Space Rabbit」は、イギリス出身のシンガーChristine Perfectの「And That’s Saying a Lot」をサンプリングしています。
Christine Perfectは、イギリスのブルースバンドChicken Shackのメンバーとして2枚のアルバムをリリースし、同グループを脱退直後、ソロデビューアルバム「Christine Perfect」(1970)をリリース。
この曲はこのアルバムに収録され、アルバムは1976年に「The Legendary Christine Perfect Album」として再リリースされています。
“PYS” 元ネタ・サンプリング
Freddie Gibbs feat. DJ Paul – PYS
Triple 6 Mafia feat. Kingpin Skinny Pimp & 211- Pimpin’ & Robbin (1994)
Three 6 Mafiaのメンバーで知られるDJ Paulがプロデュースした「PYS」は、メンフィス出身のラップグループThree 6 Mafia(当時はTriple 6 Mafia)の「Pimpin’ & Robbin」(1994)をサンプリングしています。
彼らは、1995年のデビューアルバム「Mystic Stylez」の半年前にミックステープ「Smoked Out, Loced Out」をリリースし、この曲はこの作品に収録されています。
おわりに
長くなりましたが、Freddie Gibbsのアルバム「$oul $old $eparately」はいかがでしたでしょうか。
70年代ソウルを中心にサンプリングしながらも、未だあまり触れられていない世界各国のアーティストをネタ使いするマニアックさと、また、90年代前半にビーフ関係であったBone Thugs-N-HarmonyとThree 6 Mafiaを使うことで、ヒップホップカルチャーを意識した作品になったのではないでしょうか。
この機会に、元ネタに触れながら彼のアルバムを聴いてみてはいかがでしょうか。
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