2001年に世界中で大ヒットを記録したShaggy (シャギー)の「Angel」は、前作「It Wasn’t Me」で一躍スターダムにのし上がった彼の勢いを決定づけた一曲である。
この楽曲は、単なるレゲエ・ポップのヒット作にとどまらず、過去の名曲を巧みに再構築することで、新しさと懐かしさを両立させた稀有な存在だ。MCA Recordsから2001年春にリリースされたアルバム『Hot Shot』からのセカンドシングルとして、この曲は世界中のリスナーの心をつかんだ。
Shaggy feat. Rayvon – Angel (2000)
名曲の系譜に連なる「天使」のメロディ
「Angel」の魅力の核心は、そのサンプリングの妙にある。楽曲の印象的なメロディは、1973年のSteve Miller Bandの「The Joker」のベースラインを下敷きにしつつ、さらに1967年の名曲「Angel of the Morning」のメロディを大胆に引用している。この組み合わせこそが、聴く者の心を掴んで離さないグルーヴを生み出しているのだ。
Steve Miller Band – The Joker (1973)
特に、その核となる「Angel of the Morning」は、1967年にChip Taylorが作詞・作曲し、Evie Sands (イーヴィー・サンズ)が最初に録音した。
しかし、商業的な成功を収めたのは1968年のMerrilee Rushによるバージョンであり、その後も1981年にはJuice Newtonカバーが全米シングルチャートで4位を記録、100万枚以上のセールスを達成するなど、世代を超えて歌い継がれてきた名曲である。
Shaggyは、こうした歴史あるメロディに敬意を表しつつ、ラガマフィン的なラップとRayvonの甘いボーカルを融合させ、現代のレゲエ・ポップとして見事に再構築したのだ。
Evie Sands – Angel of the Morning (1967)
シャギーが語る制作秘話
Shaggyは、この楽曲の制作について、当時の貴重なエピソードを明かしている。
「ブルックリンのClub IllusionでプレイしていたDJポールは、俺の長年のプロデューサーであるスティング・インターナショナルの親友だった。
彼が『スティーヴ・ミラー・バンドの「The Joker」をインターポレートしてみたらどうか』と提案してくれたんだ。
あのベースラインは、ロックの曲から来ているにもかかわらず、本質的にはレゲエのベースラインだった。そのグルーヴには、自然と身体が動いてしまう魅力があったのだ。」
また、メインのメロディについては、「ジャマイカのソングライター兼プロデューサーであるDave Kellyと1番のバースを書いていた時、そこにふらっと入ってきたRikRokが、あのメロディを口ずさんでいたんだ。聴いた瞬間に『これはめちゃくちゃ良い!』と確信した。
そこで、当時の流行語である『Peeps』や『Shorty』といったスラングを盛り込み、歌詞を少しクールにアレンジした。最終的にRikRokと共に2番のバースとブリッジを完成させた時、『これは特別な曲になる』と確信したよ」と振り返っている。
誠実なメッセージが世界を席巻
「Angel」は、アメリカをはじめ、イギリス、オーストラリア、ドイツ、アイルランドなど、世界12カ国以上でチャートのトップに輝き、特にアメリカでは全米シングルチャートで1位を記録した。女性層から圧倒的な支持を集めたこの曲について、Shaggyは「この曲の魅力は、愛する人を守りたいという普遍的な気持ちにある」と語っている。
前作「It Wasn’t Me」がコミカルで風刺的な歌詞で話題となったのに対し、「Angel」はより誠実で、女性への愛情とリスペクトが込められた内容だった。この対照的なテーマもまた、多くの人々の関心を引きつける要因となった。
Cameron Caseyが監督を務めたミュージックビデオも、楽曲のメッセージを視覚的に表現する上で重要な役割を果たした。高級ジェットやスポーツカーに乗って優雅な時間を過ごすShaggyとRayvonの姿は、日常から解放された楽園のようであり、楽曲に込められた「あなたは僕の天使だ」というメッセージを一層際立たせていた。
時代を超えて響く「Angel」の魔法
「Angel」は、Shaggyのキャリアを代表するだけでなく、当時のポップシーンにおけるレゲエの存在感を大きく高めた作品である。懐かしさと新しさが融合したメロディ、そしてShaggyらしい温かみのある歌声が、「天使」という普遍的なテーマを新しい形で描き出した。
リリースから20年以上が経った今も、この曲は色褪せることなく愛され続けている。結婚式のプレイリストで流れる定番曲として、人生の特別な瞬間に寄り添う一曲として、多くの人々の心に残り続けているのだ。愛する人への想いをストレートに歌い上げるこの楽曲は、時代が変わっても変わらない、まさに“心の中の天使”のような存在なのかもしれない。
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