Montell Jordan「This Is How We Do It」—90年代R&B/ヒップホップの不朽のアンセム誕生秘話

1990年代
1990年代M
スポンサーリンク

1995年2月、Montell Jordan (モンテル・ジョーダン)の名を音楽シーンに刻みつけたデビュー・シングル「This Is How We Do It」が世に放たれた。この曲は単なるヒット曲ではなく、90年代のR&B/ヒップホップ・ソウルという時代そのものを象徴する、不朽のアンセムとなったのである。

ここでは、この一曲がどのようにして生まれ、何を歌い、そしてどのような影響を与え続けたのか、その背景を深く掘り下げていく。

Montell Jordan – This Is How We Do It (1995)

スポンサーリンク

時代の幕開けとデフ・ジャムの「挑戦」

本作がリリースされたのは1995年2月5日。ヒップホップの名門レーベル、デフ・ジャム傘下のRush Associated Labelsからの発表であった。特筆すべきは、これがデフ・ジャムにとって「初のR&B楽曲リリース」であったという事実だ。ヒップホップ・レーベルがR&Bに本格進出した、その記念碑的な一作目でもあったのだ。

元々シンガー/ソングライターとして活動していたMontell Jordanは、この曲によって、まさに「どこのクラブでも、どこのストリートでも」誰もが口ずさみ踊り出すアンセムを手に入れた。

彼の地元である南セントラル・ロサンゼルスの空気と、「金曜の夜のパーティー」というテーマ。これらは、ヒップホップとR&Bが蜜月を迎え、互いに溶け合っていった90年代中盤の潮流を、見事に体現していたのである。

スポンサーリンク

音楽的ルーツと「踊れる」理由

このトラックは、Montell Jordan自身とOji Pierceによって生み出された。そして、そのサウンドの核には、巧みなサンプリング技術がある。

クレジットには、ヒップホップの偉大なストーリーテラー、Slick Rick (スリック・リック)の名が記されている。彼らが参照したのは、1988年のクラシック「Children’s Story」である。

Slick Rick – Children’s Story (1988)

さらに興味深いのは、その「Children’s Story」自体が、ジャズ・フュージョンの巨匠ボブ・ジェームスが1974年に発表したインスト曲「Nautilus」のベースラインを引用している点だ。つまり「This Is How We Do It」は、ジャズからヒップホップ、そしてR&Bへと続く、豊穣な音楽的系譜の上に成り立っている。

Bob James – Nautilus (1974)

サウンド全体は、ニュー・ジャック・スウィングやヒップホップ・ソウルの影響を色濃く反映している。強靭なドラムとベースが生み出すグルーヴ、一度聴いたら離れないキャッチーなコーラス。そのすべてが、クラブやダンスフロアを熱狂させるために計算し尽くされた構造となっている。

スポンサーリンク

歌詞に込められた「ストリートのリアル」

この曲の魅力は、サウンドだけにとどまらない。

「It feels so good in my ’hood tonight / The summertime skirts and the guys in Khakis」
(今夜の地元は最高だ/夏らしいスカートのあの子と、カーキパンツの男たち)

冒頭のこの一節から、金曜の夜、仲間たちと集い、ただ純粋に楽しむ「パーティー・カルチャー」のリアルな描写が広がる。

しかし、Montell Jordanは単に享楽的な夜を描くだけではない。

「All the gang-bangers forgot about the drive-by / You gotta get your groove on before you go get paid」 
(ギャングたちもドライブバイ(流し撃ち)のことなんか忘れてる/稼ぎに行く前に、まずはグルーヴしなきゃな)

このフレーズには、当時の南セントラルが抱えていたストリートの緊張感が、確かに織り込まれている。だが、彼はそれを深刻に歌うのではなく、「今夜だけは、そんなことは忘れて楽しもう」という、音楽がもたらす束の間の解放と祝祭の精神を強調した。

地域の文脈を背景に据えながら、誰もが共感できる「楽しむ」という一点を歌い上げたこと。それこそが、この曲を単なるクラブ・チューンを超えた普遍的なアンセムへと押し上げた要因である。

スポンサーリンク

メインストリームを塗り替えた大ヒット

「This Is How We Do It」の成功は、驚異的なものだった。 1995年4月15日、全米シングルチャートでついに1位を獲得すると、そこから実に7週連続で首位を独走。R&B/ヒップホップ・チャートでも同様に7週連続1位を記録した。

セールスは100万枚を突破し、RIAA(アメリカレコード協会)からプラチナ認定を受ける。この爆発的なヒットは、同名のデビュー・アルバムにも波及。アルバムもプラチナ認定を受け、Montell Jordanの名は一躍、時代の最前線に躍り出た。

この曲が示した「ヒップホップに強く寄せたR&Bが、メインストリームでも圧倒的に通用する」という事実は、90年代中盤のブラック・ミュージック・シーンにおける、まぎれもない転換点であった。

スポンサーリンク

成功の先、モンテルの道

一躍スターダムにのし上がったMontell Jordanであったが、彼のキャリアは後に大きな転換を迎える。R&Bヒットメーカーとしての道から、「ミニストリー(宣教/礼拝)活動」へとその軸足を移していったのだ。

2014年のインタビューで、彼はこう語っている。

「子どもの頃から私はミニストリー(奉仕)の呼びかけを感じていた。ただ、音楽業界ではそれを答えていなかった。
…今、私は音楽を通じただけでなく、神の目において意義あることをしたいと思うようになった」

この言葉は、あの祝祭的なヒット曲が、彼自身の人生において、その後の新たな働きへと向かうための重要な「基点」であったことを示唆している。

おわりに

「This Is How We Do It」は、単なる90年代のヒット曲ではない。 それは、都市の文化、ヒップホップとR&Bの幸福な融合、そしてクラブやストリートのリアルなムードを奇跡的にパッケージした、時代の記録である。

Slick Rickから受け継いだサウンドを、Montell Jordanは誰もが「踊れる/歌える」アンセムへと昇華させた。そして、自身のストリート体験を歌詞に込めることで、そこに「祝祭」としての意味を与えた。

今、この曲を聴けば、その背景にある「ストリートの匂い」「ヒップホップの文脈」「R&Bの歌心」が同時に立ち上がってくる。ただノリが良いだけではない、豊かなコンテクストを感じ取ることができるはずだ。

スポンサーリンク
musicdictionary2021をフォローする




コメント

タイトルとURLをコピーしました