イギリス出身のシンガー兼プロデューサーであるTom Misch (トム・ミッシュ)は、ジャズ、ソウル、ヒップホップなどを融合させた洗練された音楽スタイルで知られています。幼少期から音楽に親しみ、SoundCloudへの楽曲投稿を通じて多くのリスナーの注目を集めたことが、彼のキャリアの始まりとなりました。
2018年に発表したアルバム『Geography』は、Tom Mischを一躍世界的なアーティストへと押し上げた代表作です。このアルバムでは、彼の得意とするジャズやソウルの要素を存分に活かしつつ、リスナーに心地よい音楽体験を提供しました。その後、2020年にはドラマーのYussef Dayesとのコラボレーション作品『What Kinda Music』をリリース。ここでは、ジャズやエレクトロニカを取り入れた実験的なサウンドが展開され、新たな音楽的挑戦が高く評価されました。
彼の音楽の特徴は、卓越したギター技術とソウルフルな歌声にあります。また、他アーティストとのコラボレーションやプロデュースにも積極的に取り組んでおり、その才能は多方面で発揮されています。Tom Mischの楽曲は、リスナーに心地よさと深い感情を届けるものであり、その独自性が高く評価され続けています。
今回は、彼のレーベル「Beyond the Groove」からリリースされたアルバム『Geography』に収録されている楽曲『Water Baby』に焦点を当て、その元ネタや楽曲の内容について詳しく掘り下げていきます。
Tom Misch feat. Loyle Carner – Water Baby (2018)
『Water Baby』楽曲情報
リリース日
2018年1月22日
レーベル
Beyond the Groove
プロデューサー
Tom Misch
元ネタ・サンプリング
The Crusaders – My Lady (1979)
『Water Baby』について
アルバム『Geography』から3枚目のシングルとしてリリースされた『Water Baby』は、人生における困難や変化を「流れる水」のように捉え、その流れに逆らうのではなく、受け入れて進んでいく大切さを歌っています。Tom Mischは、どんなに困難な時期でも「自分のタイミングが来る」と信じる姿勢を表現し、Loyle Carnerは自分の家族や苦労を語りながらも、希望を持って「流れに乗る」ことの重要性を強調しています。全体を通じて、どんな状況においても前向きに進むことの大切さがメッセージとして込められています。
また、この曲のミュージックビデオでは、Tom Misch、Loyle Carner、そして優れたダンサーたちが登場し、冬の荒野における自然の美しさと厳しさが表現されています。映像はジョージア・ハドソンが監督し、Tom Mischが凍った湖の氷の下を漂うシーンが印象的です。この映像は不安を感じさせつつも、美しさを感じさせるもので、Tom Mischが歌いながら見せる静かな身体の動きにも、何かしらの安らぎを感じることができます。
Tom Mischは、このミュージックビデオのアイデアについて「泳ぎやサーフィンが好き」だったことからインスピレーションを受けたと語っています。Loyle Carnerや監督のジョージア・ハドソンと意見を交わしながら、何度も試行錯誤を重ね、大変な撮影を乗り越えてこの映像が完成したのです。
俺は泳ぐのが好きで、サーフィンも大好きなんだ。それがこの曲のインスピレーションになったよ。
Loyleと一緒にビデオのアイデアについて話し合ったとき、彼が前からジョージアと話していた凍った湖を使ったコンセプトについて言及したんだ。
それで俺たち3人で電話をして、そのアイデアを練り上げていったよ。
撮影は大変だったけど、やりがいがあったね。
『Water Baby』元ネタ・サンプリング情報
The Crusaders – My Lady (1979)
Tom Mischの『Water Baby』の元ネタとなったのは、テキサス州ヒューストンで結成されたジャズグループThe Crusaders (ザ・クルセイダーズ)の『My Lady』(1979)です。
The Crusadersのキャリアは、1954年に高校時代の友人であるJoe Sample、Wilton Felder、Nesbert “Stix” Hooperが結成したバンドに始まりました。1960年にロサンゼルスへ移住し、The Jazz Crusadersとしてデビュー。初期はハードバップを基盤にしながらも、R&Bやソウルの影響を受けた音楽を制作していました。その後、1971年にThe Crusadersに改名し、ジャズ・ファンクのスタイルにシフトします。
『My Lady』は、1979年に発表されたアルバム『Street Life』に収められており、このアルバムはR&Bアルバムチャートで3位を記録するなど、バンドの商業的な人気がピークに達したことを示す作品となりました。また、ビルボードの3つのチャートでトップ20入りを果たし、その成功を証明しました。
1980年代以降、メンバーの脱退やセッションミュージシャンとしての活動が増加したことで、商業的な成功は衰退しましたが、1990年代や2000年代に再結成を果たし、再び注目を集めました。
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