Joyner Lucas『ADHD 2』とは──エミネムへの憧れと挫折を越えて描かれたリアルな物語

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2025年7月18日、ラッパーのJoyner Lucas (ジョイナー・ルーカス)が、待望のサードアルバム『ADHD 2』を世に送り出した。これは、彼のキャリアの出発点であり、自己の過去と真正面から向き合ったデビュー作『ADHD』の“正式な続編”にあたる作品だ。

本作について、Joyner Lucasは2025年3月27日、Instagramで「ADHD 2はほぼ完成している。これは俺の人生の続きだ」と語っていた。この言葉通り、『ADHD 2』は前作で提示されたテーマをさらに深く掘り下げ、より濃密な物語として昇華されている。

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デビュー作『ADHD』という物語

Joyner Lucasのデビューアルバム『ADHD』は、2020年3月27日に自身のレーベル「Twenty Nine Music Group」からリリースされた。豪華なゲスト陣(Logic、Young Thug、Chris Brown、Timbalandら)や、豪華なプロデューサー陣(Boi-1da、Illmind、Jahaan Sweetら)を迎え、大きな注目を集めた。

タイトル『ADHD』は、彼が幼少期に診断された注意欠陥・多動性障害に由来する。彼は、薬の処方や特別クラスへの隔離によって「普通ではない」と感じた過去を赤裸々に告白し、音楽こそが唯一の自己表現であり「セラピー」だったと語っている。この個人的な経験が、アルバム全体のインスピレーションとなっているのだ。

アルバムは、リリース初週に全米アルバムチャートで初登場10位を記録。インディペンデントのラッパーとして、初のトップ10入りという快挙を成し遂げた。2025年3月、アルバムのリリースから5周年を迎えた彼は、Instagramでファンへの感謝と今後の展望を語っていた。

彼は、このアルバムが「アンダーグラウンドからメインストリームへと進む大きな転機」となり、「ずっと目指していた場所に辿り着くことができた」と振り返っている。そして、「この快挙をインディペンデントで成し遂げたことが何より誇らしい」と語り、チームとファンの熱いサポートに感謝を捧げた。このアルバムはプラチナディスクに認定され、まもなくダブルプラチナに達する勢いだという。

そして彼は、ファンへの感謝を述べた後、こう続けた──「『ADHD2』はもう98%完成している。思ったより早くリリースされるはずだ」。この投稿から約4ヶ月後、その言葉は現実のものとなったのだ。

 
 
 
 
 
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豪華ゲストが彩る物語の輪郭

『ADHD 2』にはT‑PainやAva Max、blackbear、Ty Dolla $ign、Big Sean、DaBaby、J Balvin、Fireboy DML、Chris Brownといった、ジャンルも国境も越えた多彩な顔ぶれが客演として参加している。豪華な顔ぶれが集まったことで、本作のスケールは前作以上に広がっているが、その中心にいるのは常にJoyner Lucas自身だ。

彼の比類なきリリックは、どれほど豪華なゲストを迎えても埋もれることはなく、むしろ彼の視点や語り口がアルバム全体のトーンを強く支配している。まさに、Joyner Lucasというラッパーの「統率力」と「演出力」が際立つ構成といえるだろう。

『One Of Them』

2025年6月にアルバムからリードシングルとしてリリースされた挑戦的な一曲。ADHDという個性を武器に、過去の苦労や偏見を乗り越えてきた自分の強さを誇示し、成功を収めた今もなお、飢えた姿勢で業界の頂点を狙っている。周囲の批判や敵意に動じることなく、「自分は選ばれし存在だ」と繰り返し宣言し、ラップシーンにおける自身の強烈な存在感を示している。

『Tear Me Down』feat. Ava Max

失恋の痛みと混乱、そしてその中でもがく感情を赤裸々に描いたラブソング。愛していた相手に捨てられた喪失感、依存と絶望の間で揺れる心情を吐き出すようにラップしている。まだ相手を求めながらも、「もう自分には必要ない」と言い聞かせようとする心の矛盾を、Ava Maxの切ないフックが際立たせている。

「なぜ愛を壊すために近づいたのか」という問いかけが、楽曲全体に深い悲しみとやるせなさを漂わせている。これは、叶わなかった未来への後悔と、それでも前に進まなければならないという苦しい決意の歌である。

『The Way That I Am』

自身の過去、苦悩、成功、そして業界への不信を赤裸々に語る、自伝的な一曲。イントロではエミネム本人がJoyner Lucasを称賛する声が流れ、それを受けるように、Joynerは「自分は“あの頃のエミネム”のような存在だ」と自己を重ねる。家庭環境のトラウマ、裏切り、名声と金への葛藤、ラッパーとしての孤独や闘志が詩的かつ鋭く綴られている。「自分は最初からこうなる運命だった」というリフレインは、彼の現在の立ち位置に対する確信と、そこへ至るまでの痛みを内包している。

『Hate Me』feat. T-Pain

貧困や苦労の中で必死に生き抜いてきた過去を語りながら、「もし俺を嫌うなら、その理由を本気で与えてやる」と強く主張する。仕事に追われ、金に困り、犯罪にも手を出しそうになりながらも、音楽で成功する道を選んできた。その過程での怒り、葛藤、覚悟が詰まっている。「何度否定されても、俺はやりきる。嫌うなら覚悟して嫌え」という挑戦的でリアルなメッセージが胸に響く一曲だ。

『White Noise』

2025年6月、アルバムから2枚目のリードシングルとしてリリースされたこの曲は、眠れない夜に頭の中のうるさい考えごとや不安と闘う様子を描いている。ADHDのせいで思考が止まらず、静かな夜が逆に苦痛だと感じていた彼は、エアコンや雨音のような“ホワイトノイズ”に安心を覚える。頭の中の混乱をかき消してくれるからだ。薬やセラピーに頼りたくなるが、それが本当の解決ではないと感じている彼の、自身の心と向き合うことの難しさを歌った曲である。

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彼の物語は続く

かつてエミネムの楽曲『Lucky You』に参加したJoyner Lucasは、新作『ADHD 2』でも彼への憧れを語っている。『The Way That I Am』でエミネム本人からの称賛を流したほか、未発表曲『Listen To My Demo』では、13歳の頃、エミネムが出演するライブに行こうと期待に胸を膨らませていたが、結局行けず、夢が遠のく瞬間を味わったことが綴られている。エミネムは、Joynerにとって「夢を叶えてくれそうな存在」であり、憧れと未達の目標の両方を象徴する存在なのだ。

『ADHD 2』は、Joyner Lucasが辿ってきた人生そのものの延長線上にある。かつて教室の片隅で「普通じゃない」と指をさされながら、それでも音楽にすがり、自分を見失わずに歩んできた彼は、今や世界中に影響を与えるラッパーへと成長した。

このアルバムに詰め込まれているのは、単なる成功の自慢でも、感傷でもない。そこにあるのは、失敗や挫折、心の傷を抱えながら、それでも歩みを止めなかったひとりの人間のリアルな物語である。豪華なフィーチャーやビートの裏側には、無名だった少年が憧れのラッパーに会おうと走ったあの日と同じように、今もなお“夢”を追い続ける姿がある。

彼は、ADHDというラベルを呪いにはせず、それを“自分という個性”として抱きしめることで、ここまで辿り着いた。そしてその歩みは、『ADHD 2』という作品を通して、同じように悩み、もがきながら生きる人たちへの力強いメッセージとなって響いている。

夢が遠のいたあの日を振り返りながらも、それでもマイクを握り続けることを選んだJoyner Lucas。その声は今も、そしてこれからも、多くの耳と心を揺さぶり続けるだろう。

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