Cardi B「I Like It」徹底考察|サンプリング元から文化的インパクトまで解説

2010年代
2010年代C
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2018年、Cardi B (カーディ・B)が放った「I Like It」は、瞬く間に世界のポップミュージック界を席巻した。Bad Bunny (バッド・バニー)J. Balvin (J・バルヴィン)というラテン界のスターをフィーチャーしたこの一曲は、ヒップホップとラテン音楽、英語とスペイン語、過去と現在──さまざまな“交差点”で生まれた奇跡である。

Cardi B, Bad Bunny & J. Balvin – I Like It (2018)

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ラテンの名曲を現代に蘇らせたサンプリングの妙

「I Like It」が特別な輝きを放っている理由のひとつは、その大胆なサンプリングにある。元ネタとなったのは、1967年にPete Rodriguez (ピート・ロドリゲス)が発表した「I Like It Like That」だ。ブーガルーというジャンルを代表するこの一曲は、ニューヨークのラテン系コミュニティを中心に愛され続けてきたダンス・クラシックである。

オリジナル版の「I Like It Like That」は、Tony PabonとManny Rodriguezが作詞作曲を手がけ、Pete Rodriguez and His Orchestraが演奏。ラテンとソウルの要素を巧みに融合させたこの曲は、子どもたちの「Ahh Bibi!」という元気な掛け声でも知られ、レコード会社からは一時カットを求められたものの、人気ラジオDJの支持を得てそのまま収録されたという逸話も残っている。

Pete Rodriguez – I Like It Like That (1966)

その後、1994年にはRay BarrettoやTito Puente、Sheila E.らが結成したスーパーグループ「The Blackout All-Stars」によってカバーされ、映画『I Like It Like That』のサウンドトラックにも使用された。

このバージョンは1996年にバーガーキングのCMソングに起用され、全米チャートでもヒットを記録。まさに時代ごとに新たな命を宿してきた名曲である。

BLACKOUT ALLSTARS – I Like It Like That (1994)

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英語とスペイン語の融合が生んだ“スパングリッシュ”の世界観

Cardi Bの「I Like It」は、この歴史的名曲のサウンドを土台に、現代的なビートとフレッシュな感性を加えることで、まったく新しい作品として昇華された。プロデュースには、彼女の代表曲を数多く手がけるJ. White Did Itに加え、ラテン・トラップの第一人者Tainyが参加。ブーガルーのノスタルジックな響きと、現代のトラップビートが自然に溶け合っている。

とりわけ注目すべきは、英語とスペイン語が混在する“スパングリッシュ”によるリリックの表現だ。Cardi Bの力強くユーモアに富んだラップに、Bad BunnyJ. Balvinがスペイン語のフロウで応戦する構成は、言語や文化を隔てるどころか、むしろ楽曲に奥行きと多様性を与えている。

ここでは“違い”が障壁ではなく魅力として機能している。Cardi Bは自身の成功とアイデンティティを高らかに宣言しながら、ラテン系アーティストがメインストリームの中心に立てることを堂々と証明してみせた。

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チャートも賞レースも制覇──歴史的ヒットへ

この曲は、批評面でも商業面でも圧倒的な成功を収めた。全米シングルチャートで1位を獲得し、Cardi Bにとっては2度目の全米No.1ヒット。女性ラッパーとして初めて、複数回の首位を記録したアーティストとなった。

一方、Bad BunnyJ. Balvinにとっては、これがキャリア初の全米No.1。SpotifyやApple Musicなどでも膨大な再生数を叩き出し、2021年にはアメリカレコード協会(RIAA)から1000万ユニット超のダイヤモンド認定を受けている。

さらに2019年のグラミー賞では「レコード・オブ・ザ・イヤー」にもノミネート。リリースから数年が経ってもなお、曲の勢いは衰えることがない。

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映像で魅せる祝祭感──マイアミから世界へ

ミュージックビデオもまた、この曲の成功に大きく貢献している。舞台はフロリダ州マイアミ、特にラテン文化が色濃く残るリトルハバナ地区。監督を務めたのはJesy Terreroで、クラシックカー、カラフルな衣装、陽気な街の風景など、ビジュアルのひとつひとつがラテン文化の祝祭感を映し出している。

公開直後から再生回数は急増し、2022年には15億回を突破。これは単なる数字ではなく、映像によってこの曲の文化的なインパクトがどれほど広がったかの証である。

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おわりに──「I Like It」は“好き”の力で世界を動かした

「I Like It」は、単なるヒット曲ではない。ヒップホップとラテン音楽、アメリカと中南米、英語とスペイン語──異なる要素が交わることで生まれた、ひとつの「文化の交差点」なのである。

そしてその出発点には、1967年に生まれた「I Like It Like That」の存在がある。半世紀以上の時を経て、その遺産はCardi Bの手によって見事に現代へと受け継がれた。

多様性が問われるこの時代に、「I Like It」はひとつの明確なメッセージを放っている。「音楽は変わっていく。でも、“好き”という感情は変わらない」──このシンプルで力強い真理こそが、この曲が持つ普遍的な魅力なのだ。

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