2025年、Kehlani（ケラーニ）が放った「Folded」は、彼女のキャリアにおける転機を象徴する楽曲である。これまで自立や強さを歌ってきた彼女が、本作で描いたのは“降参”とも言える心の解放。愛する人の前で鎧を脱ぎ捨て、ただ信頼のもとに身を委ねる──その行為を、Kehlaniは「究極の強さ」として描いている。
Kehlani – Folded (2025)
「降りる」でも「抱かれる」でもある、“Folded”という言葉の魔法
曲名の「Folded」には、二つの意味が重ねられている。
ひとつは、ポーカーで“降りる”という意味の fold。駆け引きをやめ、勝ち負けを超えて相手に心を明け渡す「降参」の象徴である。
もうひとつは、“抱かれる”“折りたたまれる”という身体的なイメージ。相手の腕の中で心も体も包み込まれ、すべてを委ねる安心感を表す。
Kehlaniはインタビューでこう語っている。
「“Folded”は、誰かを心から信じて、自分のすべてを安心して預けられることについて書いたの。それはポーカーで降りることでもあり、相手の腕の中に折りたたまれることでもあるのよ」
この“fold”という言葉の二重の意味が重なり合い、「あなたの前では私はすべてのガードを解いて、無条件に身を委ねる」というメッセージをより深く響かせている。
失った愛への未練と、もう一度やり直したいという祈り
歌詞には、別れた恋人への未練と再会への希望が静かに滲む。
Kehlaniは「必要ないふり」をして相手を遠ざけたが、心の奥ではずっとその人のことを思い続けている。
“服を畳んでおいたから取りに来て”というフレーズは、表面上はただの後片づけのようでいて、実は「もう一度会いたい」という口実でもある。
また、“ドアはまだ開いてる”“寒くなってきたけど凍ってはいない”という言葉は、関係が完全に終わっていないことの象徴だ。
別れと未練、愛と後悔。そのすべてを静かなトーンで包み込みながら、Kehlaniは「再び繋がりたい」という人間の普遍的な感情を歌い上げている。
シルキーなボーカルを包む、極上のミニマル・サウンド
「Folded」のサウンドは、Kehlaniの滑らかで温かいボーカルを主役に据えたミニマルな構成が特徴である。
プロデュースを手がけたのは、Michael JacksonやMary J. Blige、Usherらとの仕事で知られる名匠Andre Harris。
Kehlaniは彼について「Andre Harrisは、フィリピンの人たちが愛してきたR&Bの名曲をたくさん手がけてきた“R&Bの男”なの」と語る。
Andre Harrisが持つクラシックR&Bの深みと、Kehlaniのモダンな感性が見事に融合し、派手さを排した中に息づく豊かな情感が際立つ作品となった。
アメリカの音楽メディア誌も「心地よいベースと柔らかなキーボードが、彼女の感情をそのまま包み込む。まるで彼女が耳元で語りかけているようだ」と高く評価している。
世界を繋いだ“愛”のアンセム
「Folded」はリリース直後から世界中で反響を呼んだ。
特にフィリピンではチャートトップ5入りを果たし、フェス会場で観客が自発的に振付を踊る姿がSNSで拡散。
その情熱的な反応を受けて、Kehlani自身も現地公演で「この曲がフィリピンの人たちに響いている」と喜びを語っている。
さらに、アメリカの歴史的黒人大学（HBCU）のマーチングバンドがこの曲を取り上げ、フィールドで演奏したことも話題となった。
その映像を見たKehlaniは「信じられない！私の音楽がこんな形で祝福されているなんて、涙が出るほど嬉しい」とSNSに投稿。
「Folded」はもはや個人的なラブソングを超え、コミュニティと愛の結束を象徴するアンセムへと昇華したのだ。
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愛に降りること、それがKehlaniの“強さ”の証明
Kehlaniはこれまで、自分を守ること、自立することを歌ってきたアーティストである。
だが、「Folded」で彼女は初めて、守りを解き、愛に身を任せる姿を見せた。
それは決して弱さではなく、相手を信じる勇気と、自分自身を受け入れる強さの表現である。
この楽曲は、愛における脆さを“敗北”ではなく“成熟”として描いた点において、R&Bの新たな地平を切り開いたといえるだろう。
静かに、しかし確かな力で聴く者の心に寄り添う「Folded」は、Kehlaniのアーティストとしての成長と、人間としての温かさを最も美しい形で刻んだ楽曲である。
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