「Between the Sheets」は、The Isley Brothersが1983年にリリースしたR&Bスロウジャムの金字塔だ。Notorious B.I.G.の「Big Poppa」をはじめ100曲以上にサンプリングされたヒップホップ史上最重要のビートのひとつであり、40年以上が経った今もなお「究極のベッドルームソング」として語り継がれている。Ronald Isleyの深く艶のある歌声と、Ernie Isleyの官能的なギターが生み出すあのグルーヴは、一度聴いたら忘れられない。
🎧 クイック概要:10秒でわかる基本データ
| アーティスト / 曲名 | The Isley Brothers「Between the Sheets」 |
| 収録アルバム | 『Between the Sheets』(1983年) |
| サンプリング元 | Biggie「Big Poppa」/Gwen Stefani「Luxurious」 ほか100曲以上でサンプリング |
| 最高位 | Billboard R&B/Hip-Hop シングル 3位(1983年)※Hot 100には未チャート |
Biggieが使い、Jay-Zも使った――サンプリング100曲超の驚異的な記録

この曲を語るうえで避けて通れないのが、そのサンプリング実績の圧倒的な多さだ。WhoSampledでは「Sampled in More Than 100 Songs」とタグ付けされており、R&B・ヒップホップ史においても屈指のサンプリングソースとなっている。
なかでも最も有名なのが、Notorious B.I.G.の「Big Poppa」(1994年)だろう。Chucky ThompsonとNashiem Myrickがプロデュースしたこのトラックは、「Between the Sheets」のギターリフとグルーヴをそのまま骨格として使用した。エグゼクティブ・プロデューサーのSean Combs(Puff Daddy)が「Between the Sheets」のサンプル使用を強く推し、当初はLost Boyzに渡す予定だったビートを引き取ってBiggieに渡したという経緯がある。Biggieのラップと絡み合ったこの曲はBillboard Hot 100で6位、Hot Rap Songs 1位を記録する時代を超えた名曲になった。
その他の主なサンプリング例は以下のとおりだ。
- Aaliyah「Old School」(1996年)――アルバム『One in a Million』収録。Aaliyahが「Between the Sheets」のグルーヴをいち早くサンプリングした一曲だ。
- Whitney Houston「One of Those Days」(2002年)――アルバム『Just Whitney』収録、プロデューサーはKevin “She’kspere” Briggs。ビデオにはRonald Isley本人がカメオ出演している。
- Gwen Stefani「Luxurious」(アルバム収録2004年/シングルリリース2005年)――デビューソロアルバム『Love. Angel. Music. Baby.』収録。プロデューサーはNellee HooperとTony Kanal。R&B外のアーティストによるサンプリング例として広く知られる。
- Jay-Z「Ignorant Sh*t」(2007年)――Just Blazeがプロデュース、アルバム『American Gangster』収録。Jay-Zは他にもThe Isley Brothersの楽曲を複数回サンプリングしている。
なぜこれほど「気持ちいい」のか――サウンドの秘密
「Between the Sheets」の最大の特徴は、ゆったりとしたミッドテンポのグルーヴにある。BPMは84で、スロウジャムとしては絶妙な「揺れ」を持つテンポ設定だ。楽曲のキーはAマイナーで、Am、Am7、Fmaj7、Gm7を中心としたスムーズな和声が基盤。Ernie Isleyのギタープレイはこのジャンルを代表する官能的なサウンドとして広く知られている。
シンセサイザーによるパッドサウンドが楽曲全体を包み込み、深夜のムードを演出する。ボーカルのRonald Isleyはファルセットを交えながら低音域から高音域まで自在に操り、歌詞の内容をそのままサウンドで体感させるようなパフォーマンスを見せる。Rolling Stoneは2023年に「もしSmokey Robinsonが先に”Quiet Storm”という言葉を作っていなければ、このBetween the Sheetsこそがそのラジオフォーマットの名称になっていたかもしれない」と絶賛した。Hot 100には届かなかったが、それはR&Bとポップの間にあった当時の壁のせいであり、楽曲の質が原因ではないことはサンプリングの歴史が証明している。
1983年、バンドの転換期に生まれた傑作

この曲が生まれた1983年、The Isley Brothersは長いキャリアの中でも重要な転換期を迎えていた。前2作のアルバムが不振に終わり、バンドは1982年11月からBearsville Studiosに戻り、起死回生の一枚に取り組んだ。
プロデュースはThe Isley Brothers名義で行われ、作曲・演奏の中心はErnie Isley、Marvin Isley、そしてRonaldの義兄弟にあたるChris Jasperの3人だった。タイトル曲「Between the Sheets」はこの3人が基本トラックを構築し、後からRonald Isleyが参加して歌詞と歌声を乗せた形で完成している。なお同曲はMarvin Gayeの「Sexual Healing」(1982年)への応答として作られたとWikipediaのアルバム記事に記されており、当時のR&Bシーンを牽引したエロティックな雰囲気の流れに乗った楽曲でもあった。
チャート成績――Michael JacksonやPrinceと肩を並べた年
シングルとしてリリースされた「Between the Sheets」はBillboard R&B/Hip-Hopシングルチャートで最高3位を記録。アルバム『Between the Sheets』はBillboard 200で最高19位、R&Bアルバムチャートでは1位を獲得し、RIAAよりプラチナム認定も受けている。
同年のR&BシーンにはMichael Jackson『Thriller』やPrince『1999』といったモンスター作品がひしめいていた。そのなかでR&Bチャート頂点に立てたことは、The Isley Brothersの底力を如実に示している。
「Mr. Biggs」誕生のルーツはこの曲にあった
1990年代半ば以降、Ronald Isleyは「Mr. Biggs」(Frank Biggs)というキャラクターで大きな注目を集めるようになる。きっかけはR. Kellyのヒット曲「Down Low(Nobody Has to Know)」(1995年リリース)のミュージックビデオで悪役キャラクターとして強烈な印象を残したことだ。その翌年にリリースしたアルバム『Mission to Please』(1996年)が成功し、R&B界への本格復活を果たした。
この「Mr. Biggs」というキャラクターの原点こそ、「Between the Sheets」時代のRonaldが体現したセクシーでカリスマティックなイメージにある。あの楽曲が持つムードが、彼のアーティストとしての根幹を形づくったといえるだろう。
今も現役のスタンダード――ゲームから映画まで世代を超えて
「Between the Sheets」は映画・テレビにも数多く使用されてきた。ゲームではGrand Theft Auto: San Andreas(2004年)の劇中ラジオ局「Bounce FM」でも流れており、幅広い世代に届いてきた。
Spotifyをはじめとするストリーミングサービスでも継続的な再生数を誇り、「Late Night R&B」系プレイリストの定番として機能し続けている。40年以上前の楽曲でありながら、新世代のリスナーがヒップホップ経由でこの曲を発見し続けているという構造が、この曲を現役のスタンダードたらしめている。
Jimi Hendrixを雇っていた伝説のバンド――The Isley Brothers小史

The Isley Brothersは1954年にオハイオ州シンシナティで結成された。当初はゴスペル色の強いドゥーワップグループとして出発し、1959年に発表した「Shout」が初めてBillboard Hot 100にチャートインし、100万枚超のセールスでR&B界に旋風を起こした。
1960年代にはBeatlesが彼らの「Twist and Shout」をカバーして世界的大ヒットさせたことで広く知られるようになり、さらにはあのJimi Hendrixを1964年にバックギタリストとして雇用していたことでも名高い(Hendrixは同年秋に離脱後、1965年夏に短期間再合流)。1973年の「That Lady」ではロックとファンクを融合させた独自サウンドで再ブレイクを果たし、1970年代を通じてクロスオーバーな人気を博した。そして「Between the Sheets」を含む1983年のアルバムはそのキャリアの頂点のひとつであり、2014年にはグラミー賞のLifetime Achievement Awardを受賞してその功績が正式に称えられている。
まとめ――40年後も「最高のベッドルームソング」であり続けるわけ
「Between the Sheets」が40年以上にわたって聴き継がれてきた理由は、実はシンプルだ。愛、欲望、ぬくもりといった人間の普遍的な感情を、これほど完璧に音楽化した楽曲がほかにほとんど存在しないからである。Ernie Isleyのギター、Ronald Isleyの声、そしてあのグルーヴは、時代も世代も超える。Biggieが選び、Jay-Zが選び、Gwen Stefaniが選んだ――プロが「最強のビート」と認め続け、100曲以上にサンプリングされてきたことが、その答えをすべて物語っている。
関連記事はこちら






コメント