Backstreet Boysの「I Want It That Way」は、1999年にリリースされた90年代ポップ史を代表する一曲だ。作詞・作曲はスウェーデン人天才ソングライターのMax MartinとAndreas Carlsson。サンプリング元はなく完全オリジナルの楽曲でありながら、25ヶ国以上でチャート1位を獲得し、MVはYouTube10億再生を突破している。そして何より、この曲には「歌詞の意味が誰にも分からない」という、音楽史上まれに見る奇妙な秘密が隠されていた。
🎧 クイック概要:10秒でわかる基本データ
| 項目 | 内容 |
| アーティスト / 曲名 | Backstreet Boys / I Want It That Way |
| 収録アルバム | Millennium(1999年) |
| 最高位 | 米Billboard Hot 100 最高6位 英シングルチャート 1位 25ヶ国以上で1位 |
この曲の「意味」、実は誰も分かっていない

いきなり核心から入ろう。 「I Want It That Way」の歌詞は、今なお音楽史上最も議論される謎のひとつだ。サビで「heartache(心痛)」を「mistake(過ち)」と呼びながら「そう言ってほしくない」と歌い、直後に「I want it that way(俺もそうしたい)」と続く。「it」も「that way」も、何を指しているのかまったく不明なのだ。
メンバーのKevin Richardsonは当時からこう言い切っていた。
「結局のところ、この曲はあまり意味をなしていない。Maxの英語力は当時まだ"rustic(素朴)"だったから」
作詞したCarlsson本人もBillboardのインタビューで笑いながら認めている。
「全然意味をなしてないよ。大した意味はない。当時はそういう曲がたくさんあった。Meat Loafの『I'd Do Anything For Love (But I Won't Do That)』だって"That"って何なんだよって話でしょ?」
では、なぜ世界中の人が25年以上も歌い続けているのか。それを理解するには、この曲がどう生まれたかを知る必要がある。
タクシーで「隣人」だと気づいた夜:Max MartinとCarlssonの出会い

この曲の誕生には、運命みたいな偶然が重なっている。 ある夜、ストックホルムのCheiron Studiosで作業を終えたMax MartinとAndreas Carlssonは、たまたまタクシーをシェアした。話しているうちにお互いの住所を交換すると、なんと2人は同じビルの隣同士に住んでいることが判明した。何ヶ月も壁一枚隔てて暮らしながら、まったく気づいていなかったのだ。
「それ以来、彼が歌詞やアイデアを求めてドアをノックするようになった」とCarlssonはBillboardのインタビューで振り返っている。「そしてある朝、彼が『I Want It That Way』を持って来た。あれはたぶん、俺のラッキーデーだったと思う」 当時のCarlssonには、もうひとつ重要な背景がある。彼は自分自身のアーティストキャリアを諦めた直後だった。1996年、バックストリート・ボーイズのスウェーデン公演でオープニングアクトを務めた彼は、会場を埋め尽くすファンがBSBの登場と同時に失神するさまを目の当たりにした。
「理解したのはひとつだけ。俺はアーティストとして時間の無駄だということ——彼らがあまりにも素晴らしかったから」
こうして挫折を経験したCarlssonが、Martinのもとで歌詞を書く道を選んだことが、この曲を生む直接の伏線となった。
「You are my fire」だけがあった:2日間で完成したレコーディング

Martinがタクシーの翌朝に持ってきたのは、まだ骨格だけだった。 「You are my fire / The one desire」というサビの出だしとメロディーはあったが、そこから先が続かない状態だった。「彼はサビのスケルトンとヴァースのメロディーを持っていた。僕に歌詞のコンセプトを求めてきて、僕が引き取って作業し、また彼に戻すというやりとりを繰り返した。本当の共同作業だった」とCarlssonは説明している。
完成したデモを聴いたバンドとレコード会社は揃って「これはクラシックだ」と反応したが、すぐに「歌詞が抽象的すぎる」という問題が持ち上がった。そこで登場したのが後述する「幻の修正版」事件だ。 本番のレコーディングは1998年11月、ストックホルムのCheiron Studiosにて行われた。当初のデモにはメインのサビしか存在していなかったが、スタジオ入りからわずか2日間でボーカルの録音が完成した。バンドはスウェーデンを11月16日に離れ、翌17日にはOprahの番組収録に臨んでいる。プロデュースはMax MartinとKristian Lundinが担当した。
「書き直せ」と言われた:幻のバージョン「No Goodbyes」の真相
意味不明な歌詞を問題視したレコードレーベルは、大物プロデューサーに「修正版」を依頼した。その人物こそ、ザンビア生まれ・南アフリカ育ちのRobert John “Mutt” Lange——Def Leppard、AC/DC、Shania Twainを手がけてきたスーパープロデューサーだ。レーベルはLangeをスイスからスウェーデンへ飛ばし、Carlsson、Martinと3人で新バージョンを書き下ろさせた。
Mutt Langeが書き直したバージョンでは、サビの構造が逆転する。「No goodbyes(もうさよならはしたくない)」という出だしに変わり、「だからこそ、君に”I want it that way”と言ってほしい」という意味がきれいにつながる内容だ。これは後に「No Goodbyes」としてファンの間で知られるようになり、Napsterで流出した後、2025年7月リリースの『Millennium 2.0』(25周年記念盤)に正式収録された。
しかしバンドはこの修正版を拒否した。「修正版の方が意味は通っていたけど、あのオリジナルの感覚がなかった」とMcLeanは語り、Richardsonも「俺たちは原版を選んだ。フィーリングが正しかったから」と述べている。 意味より感触を優先した、その判断が正解だった。
もともとリードシングルの予定ではなかった
実は「I Want It That Way」は最初からリードシングルに決まっていたわけではない。当初、バンド自身が「I Want It That Way」をリードシングルにすることに乗り気ではなかった。「Quit Playing Games (With My Heart)」や「All I Have to Give」といった過去のヒット曲に似すぎていると感じたためだ。
リードシングルに押したのはむしろレコード会社側で、Zomba Recordingの幹部たちがバンドを説得した。一方でZomba側も歌詞の曖昧さには不安を感じており、「意味が曖昧なミドルテンポの曲でリードシングルを出せばファンを遠ざけるリスクがある」という議論が社内で交わされていた。 最終的に1999年3月にラジオ局向けのスニペットを先行配布し、4月12日に正式リリース。その判断は完全に正しかった。
Maxが信じた「メロディック・マス」という哲学
「それでもなぜこんなに響くのか」という問いへの答えが、Max Martinの制作哲学にある。「メロディック・マス(Melodic Math)」と呼ばれるそのアプローチは、歌詞の「論理的な意味」よりも「音の響きとフィーリング」を最優先にするというものだ。「I want it that way」というフレーズは意味が曖昧でも、言葉のリズムと母音の配置が曲のメロディーに完璧にはまっている——Martinにとって、それがすべてだった。
AJ McLeanは2018年のEntertainment Tonightのインタビューでこう言い切っている。
「それぞれが自分の解釈で意味を見つければいい。意味なんてなくていい曲もある。ただ機能するんだよ!」
25ヶ国1位なのに全米6位止まりだった「チャートの罠」

チャートの話をすると、少し複雑な事情がある。 「I Want It That Way」は英シングルチャートで1位、25ヶ国以上でも1位を獲得している。ところがアメリカのBillboard Hot 100では最高6位に終わった。理由は当時のチャート集計の仕組みにある。Hot 100はエアプレイ(ラジオ放送)と実際の販売数を組み合わせて算出していたが、「I Want It That Way」はシングルとして商業リリースされていなかったため、セールスが加算されなかった。Radio Songsチャートでは1999年7月17日〜31日の3週間首位、Adult Contemporaryでも10週(非連続)にわたり1位というラジオの王者でありながら、CDを買いたくても買えない状態だったのだ。
スティーヴ・クノッパーの著書には「1999〜2000年当時に”I Want It That Way”を一番手軽に手に入れる方法は、Napsterで無料でダウンロードすることだった」という皮肉な一節まで残っている。Mainstream Top 40チャートでは12週かけてトップに到達し、当時の最多週数1位記録を樹立した。
グラミー3部門ノミネート、しかしサンタナの壁に阻まれた

2000年のグラミー賞(第42回)で、「I Want It That Way」はSong of the Year、Record of the Year、Best Pop Performance by a Duo or Group with Vocalsの3部門にノミネートされた。 しかしその年は、サンタナの「Smooth」(feat. Rob Thomas)と「Maria Maria」が空前の強さで席巻していた。Record of the YearとSong of the Yearの2部門はどちらも「Smooth」が持っていき、Best Pop Performance by a Duo or Group with Vocalsも「Maria Maria」が受賞した。サンタナはこの年グラミー8部門制覇という史上最多タイを達成しており、「I Want It That Way」の受賞はならなかった。同じ年に3部門ノミネートでも「何も取れなかった」という事実が、皮肉なほどあの年代の音楽シーンの密度を物語っている。
空港で白いスーツ、飛行機のロゴはCGだった:MVの裏話

「I Want It That Way」のMVは、1999年4月1〜2日にロサンゼルス国際空港(LAX)のトム・ブラッドリー国際ターミナルで撮影された。監督はWayne Isham、スタイリストはRachel Zoe。5月5日にMTVのTRLで初公開された。 白いスーツで空港を颯爽と歩く5人のシルエットは、低アングルのカメラワークと相まって、まるでアクション映画の主人公のような雰囲気を醸し出している。そしてクライマックスでBoeing 727の前に立つシーン——実はあの機体はラスベガスのImperial Palaceカジノが所有するもので、機体に描かれた「Backstreet Boys」のロゴはCGで後から合成されている。これはメイキング映像で初めて明かされたトリビアだ。 MVは1999年のMTV VMAsで4部門ノミネートされ、Viewer’s Choice賞を受賞。2021年11月にはYouTube10億再生を突破し、Guns N’ Roses「November Rain」やNirvana「Smells Like Teen Spirit」と肩を並べる記録となった。
Chrissy Teiganが「意味わからん」とツイートしたら、バンド本人が返信してきた
歌詞の謎をめぐるエピソードの中で最もユニークなのが、2018年のSNS騒動だ。モデル兼タレントのChrissy Teiganがある日、「”I Want It That Way”の歌詞、全然意味わからない」とTwitterに投稿した。すると公式のBackstreet Boysアカウントが本人に直接返信し、こんな”解説”を行った。
「heartacheもmistakeも2 worlds apartも望んでほしくない。俺たちはそれをwantしてほしくない——だから"I want it that way"(そうあってほしいというのが俺たちの"way")と言っている」
この解説を読んで「なるほど!」と思った人は、世界に何人いただろうか。事実上、謎は深まるばかりだった。 しかも後日、Kevin Richardsonはこの”公式解説”の真相をあっさり明かしている。「ただChrissy(Teigen)をからかって、意味のない返答を送っただけだよ」と。結局、謎への”回答”も謎のままだった。
Brooklyn Nine-Nine、GTA、Weird Al……25年越しのポップカルチャー浸透
「I Want It That Way」は今もポップカルチャーのあらゆる場面に顔を出し続けている。 2018年のBrooklyn Nine-Nine「DFW」のエピソードは特に有名だ。殺人事件の被害者の妹が犯人の顔は見ていないが、犯人がバーで「I Want It That Way」を歌うのを聞いていたという設定で、ジェイク・ペラルタ(Andy Samberg)が容疑者5人全員にこの曲を歌わせるシーンが爆笑を誘った。
映画では『Drive Me Crazy』(1999)、『Magic Mike XXL』(2015)、『To All the Boys: P.S. I Still Love You』(2020)に使用。ゲームではGrand Theft Auto V(PS4版以降)の架空ラジオ局「Non-Stop-Pop FM」で聴くことができる。 Weird Al Yankovicは2003年に「eBay」を収録したアルバム『Poodle Hat』を発表し、翌2004年の第46回グラミー賞でBest Comedy Album賞を受賞した。Blink-182は「All the Small Things」のMVでこのMVを含む複数の90年代ポップMV(Britney Spearsの「Sometimes」、Christina Aguileraの「Genie in a Bottle」なども含む)を丸ごとパロディにした。2019年のスーパーボウルではChance the Rapperが主演するDoritosのCMでヒップホップバージョンにアレンジされ、BSBも出演している。
この曲が変えたもの:1999年、スウェーデンが世界のポップを支配し始めた年
「I Want It That Way」の成功は、Max Martin個人の話にとどまらない。 Cheiron Studiosが生み出したこの楽曲の成功は、スウェーデン産ポップが世界市場を席巻する時代の号砲となった。Britney Spearsの「…Baby One More Time」は1998年9月にシングルリリースされ、1999年初頭に世界各国でチャートを席巻したMax Martin制作の楽曲だ。1999年はまさに「Max Martin元年」と呼べる年で、その後MartinはNSYNC、Katy Perry、Taylor Swift、The Weekndへと楽曲提供の幅を広げ、現代ポップ史上最多のナンバーワンヒットを量産し続けている。
Andreas Carlssonもこの曲をきっかけにBritney Spears、Celine Dion、Bon Jovi、NSYNCへの楽曲提供で地位を確立した。「曲が発表された後、ニューヨークのミーティングへ向かうと、オフィス中のスタッフが立ち上がって拍手しながらこの曲を歌ってくれた」と振り返っている。 批評家の評価も高い。VH1「90年代の100 Greatest Songs」で3位(1位はNirvana「Smells Like Teen Spirit」、2位はU2「One」)、MTV/Rolling Stone「100 Greatest Pop Songs of All Time」で10位。2024年にはBillboardが「ポップ史の織物の一部として最初からそこにあったかのような、耳から離れないコーラスを持つボーイバンドバラードの傑作」と評している。Rolling Stone「500 Greatest Songs of All Time」でも240位にランクインした。
まとめ:「意味不明」だからこそ、25年間歌われ続けた
「I Want It That Way」は、意味が通じないことを弱点としながら、むしろその「意味のなさ」を最大の武器に変えた楽曲だ。 タクシーで初めて隣人だと気づいた2人のスウェーデン人。歌詞の不明瞭さに難色を示したレーベル。「修正版」を拒否してオリジナルにこだわったバンド。これらすべての選択がひとつの方向を向いていたからこそ、この曲は生まれた。 「意味はそれぞれが解釈すればいい」とAJ McLeanは言った。25年以上が経った今もなお、世界中の人々がこの曲に自分だけの「意味」を見つけながら歌い続けている。それが何よりの答えだろう。
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