奇跡のアンセム、2Pac「Changes」──死後に完成した“遺言”が問い続けるもの

1990年代
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1998年10月13日、一人のラッパーの「新曲」が世界を揺らした。2Pac (トゥーパック)の「Changes」である。 彼の死から2年後にベストアルバム『Greatest Hits』のリードシングルとして発表されたこの曲は、単なる未発表曲の蔵出しではない。ヒップホップ史に残る不朽のメッセージソングであり、同時に、彼の思想が意図せずして封じ込められた“遺書”のような楽曲だ。

なぜこの曲は、四半世紀以上が過ぎた今もなお、これほどまでに痛切に響くのか。その背景には、いくつもの奇跡的な巡り合わせと、2Pacという男のあまりに純粋な魂の叫びがある。

2Pac feat. Talent – Changes (1998)

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「未完のパズル」が名曲になるまで

まず触れるべき事実は、「Changes」は2Pacが完成させたラップに、死後あらためてビートや構成が与えられた楽曲だということだ。私たちが耳にしているあのラップは、彼が亡くなる数年前、まだインター・スコープに所属していた1992年頃に録音されたものである。後のデス・ロウ時代に見られる攻撃的なギャングスタ・ラップのイメージとは異なり、当時の彼は社会派としての意識が強く、リリックにも若き日の葛藤と純粋な義憤が色濃く残っている。

彼の死後、残された膨大な音源を整理する過程で、プロデューサー陣はこの「1992年の声」に新たな息吹を吹き込んだ。ドラムのループにはStrafe (ストレイフ)の「Set It「The Way It Is」に込められた皮肉と確信 Off」を、そしてメインの旋律にはある象徴的な楽曲をサンプリングする。 つまり「Changes」は、生前の2Pacの思想と、残された者たちの解釈が時を超えて交差した、極めて特殊な成り立ちを持つ楽曲なのである。

Strafe – Set It Off (1984)

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「The Way It Is」に込められた皮肉と確信

この曲を決定づけているのは、なんといってもBruce Hornsby and the Range (ブルース・ホーンズビー&ザ・レインジ)の1986年のヒット曲、「The Way It Is」のピアノ・フレーズだろう。だが、これは単にメロディが美しいから選ばれたわけではない。

Bruce Hornsby and the Range – The Way It Is (1986)

“That’s just the way it is / Some things will never change” (それが現実なんだ/変わらないものもある)

オリジナル曲でBruce Hornsbyが歌ったこのサビの歌詞は、人種差別や階級格差に対する諦念や現状維持の空気を描いたものだ。 このフレーズが、2Pacの嘆き―― “I see no changes”(何も変わっちゃいない) という言葉と重なる時、そこには強烈な皮肉と意味が生まれる。「変わらない現実」を歌った80年代の白人アーティストの楽曲に、90年代の黒人ラッパーの怒りを重ねる。この構図は結果的に、アメリカ社会の歪みを強烈に浮かび上がらせるものとなった。

さらに、当時はまだ無名に近かったR&BトリオのTalentがコーラスとして参加し、ピアノの旋律と絡み合うことで、楽曲はより哀愁と普遍性を帯びることとなった。

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予言者としての2Pac――内と外への視線

「Changes」が特別なのは、2Pacが単に「外敵」を攻撃するだけの男ではなかったことを証明している点にある。 彼はインタビューでこう語っている。「俺は暴力を煽っているわけじゃない。俺は“起きている現実”をそのまま語っているだけだ」。 その言葉通り、この曲にはブラックパンサー党の思想を想起させる政治的文脈や、刑務所への過剰収監、貧困層の固定化といった社会構造への批判が詰め込まれている。

だが、彼の視線はそれ以上に厳しく「内側」へと向けられていることを見逃してはならない。

“We ain’t ready to see a Black president” 
(俺たちは黒人の大統領を見る準備すらできていない)

このラインは挑発的であり、痛烈な自己批判だ。「黒人同士で殺し合っている限り、誰も俺たちを本気で救おうとはしない」。彼はそう信じていた。社会制度への怒りと同じ熱量で、コミュニティ内部の分断や争いを嘆いていたのだ。 後にバラク・オバマが大統領に就任した歴史を知る現代の我々が聴くと、この歌詞はさらに複雑な響きを持って迫ってくる。

また、自身の別曲「I Wonder If Heaven Got a Ghetto」からのフレーズ引用も見られ、彼が生涯を通じて同じ問い――なぜ貧困はなくならないのか、なぜ争いは続くのか――を抱え続けていたことが痛いほど伝わってくる。

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怒りと祈りの狭間で

2Pacには過激な曲も多いが、「Changes」は奇跡的なバランスで成り立っている。怒りすぎていないし、安易な希望も語りすぎない。現実を美化することもない。 だからこそ、この曲は抗議歌(プロテスト・ソング)でありながら、どこか静かな「祈り」のように聞こえる。

その評価は数字や賞にも表れている。死後の作品としては異例中の異例だが、2000年のグラミー賞では「最優秀ラップ・ソロ・パフォーマンス賞」にノミネートされた。音楽メディアからは「難解な政治論ではなく、誰もが理解できる言葉で語られた、極めて成功した政治的楽曲」と評された。

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永遠に終わらない「Changes」

1992年に録音された声は、2000年代、そして今もなお、予言のように響き続けている。 警察による暴力、人種間の緊張、貧富の差。「I see no changes」という彼の一節は、時間が経てば経つほど、その重みを増しているようにさえ思える。

皮肉なことだが、彼が最も静かに社会を見つめ、完成させる前に命を落としたこの断片的な言葉たちが、死後に最も広く愛される曲となった。 「Changes」は、変化への渇望と社会への問いかけを真空パックした、2Pacという男の魂そのものである。この曲が聴かれ続ける限り、彼の問いもまた、終わることはないのだ。

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