XXXTentacion (エックスエックスエックス・テンタシオン)という不世出のアーティストを語る上で、避けては通れない一曲がある。2015年の暮れ、SoundCloudという混沌としたプラットフォームから産み落とされた衝撃作「Look at Me!」だ。
この曲はいかにして時代の寵児となり、同時に物議を醸す存在となったのか。その軌跡を、音楽性、メッセージ、そして彼を取り巻く狂騒から紐解いていく。
XXXTentacion – Look at Me! (2015)
歪んだ音が鳴らした「時代の産声」

2015年12月30日。Jahseh OnfroyことXXXTentacion(以下、X)がこの曲をSoundCloudにアップロードした瞬間、ラップシーンの力学は音を立てて変わり始めた。
翌年にデジタル配信、2017年にはリマスター版が再リリースされると、その勢いは加速。最終的にビルボードHot 100で34位を記録し、RIAA(アメリカレコード協会)からはプラチナ認定(100万ユニット以上)を受けた。
徹底的に「粗い」プロダクションの正体
この曲を耳にしてまず驚かされるのは、耳を突き刺すような重低音と、あえて割れたような質感のディストーション(歪み)だ。プロデューサーのRojasと、エンジニアとして制作に関わったJimmy Duvalは、意図的に「ミックスで失敗したようなサウンド」を採用した。
クリアで洗練された当時のメインストリームへのアンチテーゼとも言えるこのLo-Fiな粗さは、インターネット世代の若者たちに強烈なエネルギーとして伝播した。また、ビートの核にはイギリスのプロデューサーMalaによる2007年の楽曲「Changes」がサンプリングされており、ダブステップの要素を独自の感性でヒップホップへと昇華させている。
Mala – Changes (2007)
「Look at Me!」という切実な渇望

歌詞の内容は極めて刺激的だ。暴力、性、過激な自己主張。しかし、繰り返される「Look at me(俺を見ろ)」というフレーズは、単なる挑発を超えた、ある種の「悲鳴」に近い。
「それはリアルなんだ。マスクはしてない。型にはまらない。俺がやりたかったのは、個性であることだ。できるだけ生(raw)で、リアルでいることが重要だったんだ」 —— XXXTentacion
Xはインタビューでそう語っている。社会的な疎外感を抱え、孤独の中にいた彼にとって、この曲は「自分の存在を世界に認めさせるための咆哮」であった。その生々しい感情の吐露が、同じように孤独を感じる若者たちの心を掴んで離さなかったのだ。
巻き起こる議論と、数々の逸話
「Look at Me!」の歴史は、同時に論争の歴史でもある。この曲が社会に与えたインパクトは、時に凄まじい摩擦を引き起こした。
- 人種問題へ切り込んだMV: 2017年に公開されたミュージックビデオでは、白人の子どもが絞首刑に処されるようなショッキングな演出が含まれた。Xはこれを「アメリカの人種差別の歴史を象徴するアートだ」と主張したが、当然ながら激しい批判の的となった。
- ドレイクとの「フロウ盗用」疑惑: カナダのスター、Drakeの新曲「KMT」のフロウが本作に酷似しているとして、SNS上で大炎上した。X自身も「使うなら事前に連絡しろ」と強く反発。この騒動は、アンダーグラウンドの王者がメインストリームの巨人に噛み付くという、象徴的な出来事となった。
- 教会での逮捕事件: カナダでは、16歳の少年が礼拝中にこの曲を大音量で流して警察に連行されるという、まるで現代の寓話のような事件まで起きた。
また、成功の裏では権利を巡る争いも影を落としている。共同プロデューサーのJimmy Duvalは、自身の貢献が正当に認められていないとして、Xの遺族に対しロイヤリティの支払いを求める訴訟を起こした。
音楽の民主化、そして「遺産」へ

「Look at Me!」が成し遂げた最大の功績は、音楽の民主化を体現したことだろう。SoundCloudという場所から、既存のレーベルシステムを介さずに世界を揺らした事実は、後の「パンク・ラップ」や「トラップ・メタル」というジャンルの礎となった。Billboardが2010年代を代表する100曲に選出したのも納得のいく話だ。
2018年、Xは20歳という若さでこの世を去った。しかし、彼の人生そのものをタイトルに冠したドキュメンタリー『Look at Me: XXXTentacion』が制作されたことからもわかる通り、この曲は今もなお彼の魂の同義語として響き続けている。
かつて車のスピーカーを震わせ、SNSでミームとなり、若者たちの反骨精神の拠り所となったこの「歪んだ叫び」は、今や伝説という名の静寂の中に、確かに刻まれている。



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