2025年、ポップカルチャーの歴史に刻まれる”前例のないヒット曲”が世界を席巻した。その名は「Golden」——実在しないK-POPグループ HUNTR/X(ハントリックス) によるシングルが、Billboard、Spotify、YouTubeの主要チャートを次々と制圧し、2026年のグラミー賞でK-POPジャンル史上初のグラミー受賞という歴史的快挙まで成し遂げた。
「虚構から生まれた曲が、現実世界の音楽史を書き換えた」——そんな一文でしか表現できない、前代未聞の物語を紐解いていく。
HUNTR/Xとは?「存在しないグループ」が世界を動かした理由

HUNTR/Xは、Netflix配信のアニメ映画 『KPop Demon Hunters(邦題:KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ)』 の劇中に登場する架空のK-POPガールズグループだ。2025年6月20日に配信が始まったこのアニメ映画は、K-POPアイドルたちが悪魔と戦うというファンタジーとポップミュージックを融合した作品で、配信直後から世界中でトレンド入りを果たした。
HUNTR/Xの実際のボーカルは、現実のアーティストである EJAE、Audrey Nuna、REI AMI の3人が担当。それぞれ映画内のキャラクター「ルミ」「ミラ」「ゾーイ」として命を吹き込んでいる。EJAEとREI AMIはソウル出身、Audrey Nunaはニュージャージーにルーツを持つ。
監督のクリス・アッペルハンズは制作時、「迷ったら”より韓国らしく”を選ぶ」ことを意識的に徹底したという。表面的なK-POP模倣に終わらせず、現地アーティストやプロデューサーの声を積極的に取り入れたことで、本物の熱量を持つ作品が生まれた。EJAEが初期段階で制作したデモ音源が映画全体の音楽設計の基盤となり、彼女の歌声がルミというキャラクターを形成し、物語のトーンまでも決定づけたとされる。
「Golden」の誕生:制作背景と歌詞に込められたメッセージ

「Golden」は映画公開から2週間後の 2025年7月4日、Republic Records(Visva/Republic)からストリーミング配信された。
楽曲はEJAE、Mark Sonnenblick、Park Hong Jun、Joong Gyu Kwak、Yu Han Lee、Hee Dong Nam、Jeong Hoon Seoによる共同制作。エレクトロポップとK-POPのエネルギーを融合させた英語と韓国語が混在するサウンドで、歌詞には「隠れることをやめ、輝きを放つ」という自己肯定と勇気のメッセージが色濃く刻まれている。
"I'm done hidin', now I'm shinin' / Like I'm born to be."
(もう隠れるのはやめた。生まれながらにして輝く存在のように、今私は光る)
このメッセージは映画の主人公たちの成長物語と重なり合いながらも、現代を生きる多くのリスナーの心に響く普遍的なテーマとして機能した。
ボーカル3人もそれぞれの想いを語っている。EJAEは「この曲はただの映画の一曲じゃない。人生の旅路や、自分を信じる強さを歌っている」と述べ、REI AMIは「私たちが戦っている悪魔は、外ではなく内側にいる」と言葉を添えた。
「Goldenは映画のクライマックスだけでなく、リスナーの人生と重なるようにデザインした」——制作陣もそう明かしている。
Billboard席巻:数字が証明する”前例なき記録”

「Golden」のチャート成績は、”フィクション発の楽曲”という出自を軽く超越した。
Billboard Hot 100では2025年8月中旬に初めて1位を獲得し、計8週間首位を維持。これはサウンドトラック楽曲としてHot 100を8週支配するのが68年のチャート史で8番目タイの快挙で、女性グループの楽曲としてはTLC「Waterfalls」を抜いて歴代2位に浮上した(歴代1位はDestiny’s Child「Independent Women Part I」の11週)。アニメキャラクターによる楽曲としては史上最長記録だ。
Billboard Global Excl. U.S. では最終的に20週首位を達成し、ROSÉ & Bruno Marsの「APT.」が持っていた記録を塗り替えた。
Billboard Global 200 では18週首位。Radio Songsチャートでは2026年1月にK-POP曲として史上初の1位を獲得し、その後はPop Airplayでも3週間首位、Adult Pop Airplayでも1位に輝いた。
さらに、同映画のサントラは史上初めて4曲同時にHot 100トップ10入りを果たしたサウンドトラックとして記録されている(「Golden」のほか、「Soda Pop」「Your Idol」も上位に同時ランクイン)。
SiriusXMとPandoraの音楽プログラミング担当バイスプレジデント、アレックス・ティアはBillboardのインタビューでこう語った。「Goldenは本当に一つのポップの定義になった瞬間。聴いたら思わず前のめりになって、ボリュームを上げてしまう曲だ」
各国チャートと韓国での快挙
「Golden」の強さは米国だけにとどまらない。
韓国ではCircle Digital Chartで1位を獲得し、同国の2025年「パーフェクト・オールキル」を達成した3曲のうちの1曲となった。さらに、パーフェクト・オールキルの時間記録を更新する快挙まで成し遂げている。
日本ではJapan Hot 100で7位にランクイン。Oricon Chart上での累計デジタル販売数は2026年2月1日時点で43,071部を記録した。
ドイツでは最高位1位、オーストリアでは7週連続首位を達成。シンガポールやマレーシアのOfficial Single Chartでも1位に輝いた。
SpotifyではBlackpinkを超えてK-POP女性グループとして米国デイリーチャート最高位を記録。7月には米国スポティファイ・デイリーチャートでも1位に到達した。また公式lyric videoは2026年1月にYouTube10億再生を突破。サウンドトラック全体のグローバルストリーミングは100億回を超えた。
グラミー・ゴールデングローブ・批評家賞:賞レース完全制覇

「Golden」の快進撃は音楽賞レースでも続いた。
2026年2月1日、第68回グラミー賞では「Best Song Written for Visual Media」を受賞。これはK-POPジャンルとして史上初のグラミー受賞という歴史的瞬間となった。さらに「Song of the Year」「Best Pop Duo/Group Performance」を含む計4部門にノミネートされていた。特に「Song of the Year」で女性グループがノミネートされるのは、The Chicks「Not Ready to Make Nice」が受賞した2007年以来約20年ぶりのことだった。
受賞の瞬間、Audrey Nunaは「本当に奇跡のように感じる部分もある。そして何か運命のようにも感じる……今はただ、すべてを受け止めようとしています」と語った。
賞レースの全成績は以下の通りだ。
グラミー賞「Best Song Written for Visual Media」受賞(2026年2月1日)、ゴールデングローブ賞「Best Original Song」受賞、Critics’ Choice Award「Best Original Song」受賞、アカデミー賞「Best Original Song」ノミネート(授賞式2026年3月)。映画本体でもアカデミー賞「Best Animated Feature」にノミネートされている。
SNSと社会現象:カバー動画が世界を飲み込んだ
「Golden」のヒットを加速させた要因の一つがSNSとカバー文化だ。制作側が意図的に歌唱難易度の高い部分をサビに配置したことが、「歌えるか挑戦してみよう」というムーブメントをTikTokやInstagramで巻き起こした。
2025年10月4日のSNL(サタデー・ナイト・ライブ)シーズン51の初回に、ホストのBad Bunnyが「Golden」への愛を叫ぶコントが披露され、さらに話題が拡散。2025年11月27日のメイシーズ感謝祭パレードでもHUNTR/Xが生パフォーマンスを披露した。
翌2026年2月1日にはグラミー授賞式に登壇し、そして同2月22日には英国・ロイヤル・フェスティバル・ホールで開催されたBAFTA 2026でもパフォーマンスを披露。これが初の米国外ライブパフォーマンスとなり、会場の観客全員が歌詞を口ずさむ光景がSNSで拡散された。BAFTA担当エグゼクティブのEmma Baehrは「世界中の、あらゆる年代の人々の心と記憶に途方もない影響を与えた」と語っている。
“K-POP”をめぐる議論:グラミー受賞は本当にK-POPの勝利か
「Golden」のグラミー受賞は音楽史の転換点となったが、一方でユニークな議論も巻き起こした。「100%英語の曲、英語のアニメ、英語圏の観客向けのコンテンツの、どこがK-POPなのか」という声がXで広がったのだ。
アリゾナ州立大学の韓国学准教授アリューム・チョンも「APT.やKatseye『Gabriela』など、今年のグラミーにノミネートされた曲はK-POPというよりも脱地域化されたハイブリッドな形のK-POP」と述べている。
一方でカーネギーメロン大学の研究者は「2026年のK-POP複数ノミネートは、この音楽がもはやニッチではないことを示している」とも語る。虚構のグループが切り開いたK-POPの新章は、ジャンルの定義そのものを問い直す契機にもなった。
まとめ:フィクションが現実の音楽史を書き換えた
架空のアイドルグループが現実のチャートを制し、グラミーを受賞し、アカデミー賞にノミネートされる——「Golden」はそんな前代未聞のシナリオを現実にした。
REI AMIが「Golden」がHot 100で初めて1位を取った瞬間に残したコメントがすべてを物語っている。
「上へ、上へ、上へ」
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