90年代半ばのウェストコースト・ヒップホップ。そのシーンの空気を切り取り、今に伝える一曲がある。Twinz(ツインズ)が放った「Eastside LB」だ。この曲を耳にすれば、誰もが当時のロングビーチの街の空気や、メロウな夜の匂いを感じ取るだろう。
チャートの順位や派手なヒットという物差しでは測れない、大切な「ロングビーチらしさ」が、ここには凝縮されている。本作は、G-Funk黄金期のエッセンスそのものなのだ。
Twinz feat. Warren G & Tracey Nelson – Eastside LB (1995)
稀代のメロウネスは、どのようにして生まれたか
この曲の心臓部となっているのは、疑いようもなくWarren G(ウォーレン・G)によるプロダクションである。彼は、1976年のDeniece Williams(デニース・ウィリアムス)の名曲「Free」を、単なるサンプリングではなく引用(インターポレーション)という形でG-Funk流に再構築した。
Deniece Williams – Free (1976)
原曲の穏やかで伸びやかなメロディの骨格はそのままに、G-Funk特有の滑らかなビートと柔らかいコード進行を重ねる。特筆すべきは、ビートの「間」を生かした構成だ。これにより、都会的でありながらも温かみのある、あの独特のサウンドが生まれている。
そして、最も巧みなのがサビである。原曲の象徴的なフレーズ “Free” を、彼らの地元 “EASTSIDE LB” に置き換えたのだ。これはオリジナルへの深い敬意と、地元ロングビーチ東側(Eastside Long Beach)への揺るぎない誇りを、同時に表現する見事な手法であった。
ロングビーチの「地元感」を体現する声

この極上のトラックの上でマイクを握るのは、Twinz。DeonとDewayneの双子の兄弟からなるヒップホップ・デュオである。彼らこそ、Snoop Dogg、Nate Dogg、Warren Gによるユニット「213」の流れを汲む、ロングビーチ・サウンドの中核を担う存在であった。
Twinzのリリックは、派手な装飾を排し、あくまでリアルな日常を語るスタイルだ。Eastside Long Beachに暮らす視点から、仲間との友情、避けられない抗争、そして胸に秘めた誇りを淡々と、しかし確かに描き出す。
このストリートの現実を、メロウなサウンドと滑らかに繋ぐのが、女性シンガーTracey NelsonのR&Bコーラスである。彼女のソウルフルなハーモニーは、楽曲の温度を確実に上げ、Twinzの地元語りとの間に絶妙な橋を架ける。結果、ストリートの現実とR&B的な親しみやすさが見事に共存した。
さらに、プロデューサーであるWarren G自身もラップで参加し、作品全体の世界観を強く牽引している。このラップとメロディの完璧なバランスこそ、90年代西海岸ヒップホップが持つ「メロウの美学」の象徴と言えるだろう。
アルバム『Conversation』と「Eastside LB」の足跡

Twinzは1995年8月22日、デビューアルバム『Conversation』をリリースする。このアルバムは、Warren Gがほぼ全編のプロデュースを手掛けた、G-Funk特有の滑らかさが全編を貫く作品であった。
「Eastside LB」は、このアルバムからのセカンド・シングルとして、1996年1月30日に世に出た。全米チャートを席巻する大ヒットとまではいかなかった。しかし、R&B/Hip-Hopチャートやラップ・シングル・チャートにはしっかりとランクインし、Twinzの代表作としてファンの間で長く支持される「ローカル・クラシック」としての地位を確立する。
12インチやカセットのフォーマットには、LPヴァージョンやインストゥルメンタル、そして「Jump ta This」といった楽曲が収録され、クラブやラジオでも頻繁にプレイされたのである。
映像に刻まれた、ありのままのロングビーチ
この楽曲の魅力をさらに補完するのが、ミュージック・ビデオだ。監督を務めたのは、当時から数々の名作を手がけていたPaul Hunter(ポール・ハンター)。
映像は、ロングビーチの実際の街並み、仲間たちとの屈託のない交流、そしてストリートに漂う空気感を、実に自然体で切り取っている。90年代ウェストコースト・ヒップホップの映像演出の典型とも言えるが、Twinzの地元愛が色濃く映し出された秀逸な出来栄えだ。
結論。なぜ今も愛され続けるのか
「Eastside LB」は、Twinzにとって数少ないリリース作品の中でも、群を抜いて印象的な一曲である。
- Warren Gによる滑らかなG-Funkプロダクション
- Deniece Williams「Free」の巧みな引用
- 地元Eastsideへの真摯なリスペクト
これら3つの要素が有機的に絡み合い、この曲を90年代中盤の西海岸サウンドを象徴するメロウ・クラシックへと昇華させた。Tracey Nelsonの歌声がもたらす「夜のロングビーチをドライブするような心地よさ」は、今聴いても色褪せることはない。
この曲は、単なるヒット曲ではなく、一つの時代の、一つの街の空気を記録した「音のドキュメント」なのである。



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