1997年3月9日、24歳の若さでこの世を去ったビギーことThe Notorious B.I.G. (ノトーリアス・B.I.G.)が、亡くなる数日前の3月4日にアルバム「Life After Death」(1997)からリードシングル「Hypnotize」(1997)をリリースし、死後全米チャート1位を獲得しました。
アルバム収録曲「Mo Money Mo Problems」の元ネタはこちら。
これは、1980年のジョン・レノン、オノ・ヨーコによる「(Just Like) Starting Over」以来、死後5作目の全米1位となり、グラミー賞では「最優秀ラップソロパフォーマンス」部門にノミネートされました。
また、ローリング・ストーン誌の「史上最高のヒップホップ100選」で30位に選ばれ、90年代のラップシーンを語る上で欠かすことのできない曲となっています。
ここでは、The Notorious B.I.G.の亡くなる前の最後の曲であるこの曲の元ネタについて解説します。
The Notorious B.I.G. – Hypnotize (1997)
“Hypnotize” 楽曲情報
レーベル
Bad Boy Entertainment
Arista Records
プロデューサー
Diddy
Deric “D-Dot” Angelettie
Ron “Amen-Ra” Lawrence
元ネタ・サンプリング
Herb Alpert – Rise (1979)
Doug E. Fresh – La Di Da Di (1985)
“Hypnotize” 元ネタ・サンプリング情報①
Herb Alpert – Rise (1979)
元ネタになったのは、カリフォルニア州ロサンゼルス出身のトランペッターHerb Alpert (ハーブ・アルパート)の「Rise」(1979)です。
この曲は、彼の1979年の同タイトルのアルバム「Rise」に収録され、全米ジャズアルバムチャート1位を獲得し、アルバムからのリードシングルであるこの曲は、全米シングルチャート1位を獲得。
さらに、グラミー賞の「最優秀ポップインストゥルメンタルパフォーマンス賞」を受賞するなど成功を収めましたが、その制作過程で、この曲をプロデュースしたHerb Alpertの甥Randy ‘Badazz’ Alpertは、当初はテンポの速い曲だったようですが、Herb Alpertの提案で現在の形に変化したと明かしています。
スタジオでこのグルーヴを作ったんだけど、もともとは1分間に125拍くらいある速い曲だったんだ。 それを下げていったら、すごくいい音になったんだ。 俺はコントロールルームに座っていたんだけど、Herbがやってきて「これをスローにしたらどうだろう?」と言ってきたんだ。 それで俺は「やってみよう」と言って、1分間に100拍近くまで落としたと思う。 スタジオに座っていると、時々、何かが魔法にかかったようになるんだ。 「なんてこった!、これはヤバい」って思うことがあるよ。 ベルが鳴るんだよ、わかるかな? このテンポだと、トランペットが入る前から、ディープでダーティでファンキーで... 俺が好んで聴いていたレコードのようなサウンドだったんだ。 Sam & DaveやWilson Pickett、メンフィス・ファンクのようなスローなものなんだ。
また、この曲はイギリスでもヒットを収めましたが、イギリスのDJがアメリカの12インチシングルが45回転ではなく33回転で録音されていることに気付かず、早回のバージョンでプレイしたところ、ヒットしたとも言われています。
多くのサンプリングの依頼を断り続けていた?
この曲は80年代から90年代にかけて何度もサンプリングの依頼があったようですが、これをRandy ‘Badazz’ Alpertは全て断り続け、自分が認めたラッパーだけに使って欲しかったようです。
この曲の出版は俺が管理し、マスターはHerbが管理していたから、誰がそれを使うかコントロールできたんだ。 80年代後半から90年代前半にかけて「Rise」をサンプリングしようとしたレコードが8〜10枚ほどあったんだけど、俺はそういうのは好きじゃなかったね。 俺はN.W.A.が大好きで、白人ラジオで爆発的にヒットする前の西海岸のラップシーンにとても興味があったから、Dr. DreかN.W.A.から連絡が来ないかといつも思っていたんだ。 N.W.Aはファンキーなレコードで、俺が子供の頃に聴いていたレコードをサンプリングしたものだったから。
そんな中、彼はThe Notorious B.I.G.のファンで、たまたま送られてきたビギーのデモ聴いて、そのラップに心を奪われ、サンプリングの許可したようです。
それで何枚も断っていたら、96年の11月だったと思うけど、ついに出版社から電話がかかってきて「ニューヨークにこのレコードがあるんだけど、君に送りたいんだ、『Rise』をサンプリングしているんだ」と言われた。 Bad Boy Recordsからカセットが送られてきたんだ。 俺はバスルームで、夜出かけるために髭を剃っていたんだ。 カセットをかけたけど、そのラッパーが誰なのかさえ分からなかった。 でも、聴いてすぐにThe Notorious B.I.G.だとわかったんだ。 俺は、1994年のデビューアルバム「Ready to Die」の大ファンで、この男はブレイク寸前だとわかっていたんだ。 この曲を入れて、トイレに行ってシステムを回して、その時覚えているのは「終わった」って思ったんだ、素晴らしかったよ。 「Rise」の曲を持っていたときと同じように、そのカセットを何度も何度も再生したんだ。 30分、45分くらいは再生していたかな。これはすごいヒット曲だって。 ビギーが「Biggie, Biggie, Biggie, can’t you see」と歌っているカセットもまだ持っているけど、そこに女の子(TotalのPamela Long)を入れる前だった。 次の段階に進む前に、彼らはサンプルをクリアにしたかったからだね。 すぐに電話して「これはいい。これはいけるぞ」って言ったよ。
“Hypnotize” 元ネタ・サンプリング情報②
Doug E. Fresh feat. Slick Rick – La Di Da Di (1985)
また「Hypnotize」は、ニューヨーク、ハーレム出身のラッパー、ビートボクサーのDoug E. Fresh (ダグ・イー・フレッシュ)の「La Di Da Di」(1985)をサンプリングしています。
この曲は、1985年のシングル「The Show」のB面としてリリースされ、その後、初期のヒップホップクラシックとして注目を浴び、現在までに1000曲以上でリリックやフレーズがサンプリングされ、歴史上最もサンプリングされた曲の1つとして知られています。
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