Dr. Dre「Xxplosive」徹底解説|LL Cool Jが断ったビートが西海岸クラシックになるまで

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西海岸ヒップホップの歴史を紐解くとき、避けては通れない金字塔がある。1999年、Dr. Dre(ドクター・ドレー)が放ったアルバム『2001』。その中核をなす楽曲「Xxplosive」は、公式シングルとしてカットされていないにもかかわらず、都市部のラジオやクラブシーンを席巻し、今なおG-ファンクの至高のアンセムとして君臨している。

この曲がいかにして「偶然の名曲」となり、後世のプロデューサーたちに多大な影響を与えるに至ったのか。その裏側に隠された、人間味あふれるエピソードを紐解いていく。

Dr. Dre feat. Six2, Hitman, Kurupt & Nate Dogg- Xxplosive (1999)

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始まりは「拒絶」から。LL Cool Jが手放したビートの行方

「Xxplosive」の物語は、意外な人物の「NO」から始まる。この中毒性の高いビートは、もともとクイーンズのレジェンド、LL Cool Jのために制作されたものだった。

LL Cool J本人が後に語ったところによれば、彼は実際にこのビートでレコーディングを行い、デモ音源まで完成させていたという。しかし、最終的に彼は「フィーリングが合わない」と判断し、このビートをお蔵入りさせた。現在もその未発表デモは彼の自宅に保管されているという。

その後、このビートはRoyce da 5’9″との未発表曲「The Way I Be Pimpin’」にも流用されたが、これも日の目を見ることはなかった。紆余曲折を経て、ドレーはこのビートを自らのアルバム『2001』用に再構築することを決意する。もしLL Cool Jがこのビートを気に入っていたら、今日の西海岸クラシックは存在しなかったかもしれない。音楽制作における流動的な「偶然」が、奇跡の1曲を生んだのである。

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70年代の哀愁を2000年代のストリートへ。サンプリングの魔法

「Xxplosive」のサウンドの核となっているのは、Dr. DreとMel-Manによる巧みなサンプリングだ。彼らが目をつけたのは、Soul Mann & the Brothersによる1971年のインストゥルメンタル「Bumpy’s Lament」。これはもともとアイザック・ヘイズ(Isaac Hayes)が手がけた楽曲であり、根底には70年代ソウル特有の深い哀愁が流れている。

Soul Mann & the Brothers – Bumpy’s Lament (1971)

ドレーはこのメロディに、重厚なドラムと地を這うようなシンセベースを融合させた。この「哀愁を帯びた鍵盤の旋律」と「浮遊感のあるリズム」の組み合わせは、当時のヒップホップ/R&Bシーンに強い印象を残し、その後のネオ・ソウル以降の作品群――エリカ・バドゥ「Bag Lady」などにも通じる空気感を先取りしていたとも言える

また、この曲のドラムはあまりに完璧であったため、若き日のカニエ・ウェストを虜にした。カニエは後に「この曲のドラムの感覚から自分のスタイルが始まった」と語っており、実際に彼がプロデュースしたJay-Zの「This Can’t Be Life」でもこの手法が引用されている。

Jay-Z feat. Beanie Sigel & Scarface – This Can’t Be Life (2000)

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スタジオの熱量。Nate Doggとラッパーたちの即興劇

この楽曲のユニークな点は、主役であるはずのDr. Dre自身が一切ラップをしていないことだ。マイクを握ったのは、Hittman、Kurupt、Six2の3人、そしてフックを担当した「G-ファンクの至宝」Nate Doggである。

当時のスタジオは、張り詰めた緊張感よりも、自由で即興的な遊び心に満ちていた。Kuruptの回想によれば、ドレーはただビートを流し、「さあ、好きにやってくれ」と彼らを解き放ったという。

Nate Doggの滑らかで甘い歌声が全体を包み込み、ラッパーたちが「成功、誇示、快楽」といったストリートのリアリティを自由に吐き出す。このセッションが生んだ化学反応こそが、曲に圧倒的なライブ感とドラマを与えているのだ。歌詞には女性蔑視や暴力的な表現が含まれるとして批判の対象になることもあるが、それさえも当時の西海岸ギャングスタラップが持っていた、剥き出しの空気感を象徴していると言えるだろう。

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成功の影に潜むクレジット問題

華々しい評価の裏で、この曲はヒップホップ業界の複雑な裏事情も抱えている。 長年ドレーのエンジニアを務めていたChris “The Glove” Taylorは、自分も制作に深く関与したと主張している。彼は当時、わずか1,500ドルの報酬すら受け取れなかったと主張しており、一方で公式クレジット上はMel-Manが共同制作者として名を連ねる形になったことから、この曲の制作過程を巡っては長年議論が続いている。名曲の誕生には、しばしばこうした権利を巡る人間模様がつきまとうものだ。

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時代を超えて鳴り響く「偶然の産物」

公式シングルではないにもかかわらず、なぜ「Xxplosive」はここまで愛されるのか。 それは、LL Cool Jが断ったという「意外性」、70年代音楽を蘇らせた「再解釈」、スタジオでの「即興性」、そして次世代のプロデューサーを揺さぶった「影響力」――そのすべてが、この数分間のトラックに凝縮されているからだ。

西海岸の乾いた風と、ストリートの重厚な熱気。その両方を感じさせるこの曲は、単なるラップミュージックの枠を超え、音楽史に刻まれた必然の傑作である。一度耳にすれば、その背後にあるストーリーの深みとともに、再びこのビートに酔いしれることになるだろう。

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