2005年、Black Eyed Peas(以下BEP)が世に放った『Don’t Phunk with My Heart』は、今聴き直しても「一体どうやってこの曲を世界的ヒットに仕立て上げたんだ?」と、軽く脳が混乱するほど多国籍・多ジャンル・多要素が詰め込まれた一曲である。
しかし、その“ごちゃ混ぜ感”こそがBEPの真骨頂であり、当時の彼らが音楽シーンにおいて完全に「無双状態」であったことの証明でもある。本稿では、この楽曲が持つ背景、あまりに大胆なサンプリング、MVの遊び心、そしてエンターテインメントとしての凄みを掘り下げてみたい。
Black Eyed Peas – Don’t Phunk With My Heart (2005)
ボリウッド映画が丸ごとヒット曲に変身
この曲を語る上で避けて通れない最大の特徴は、インド映画(ボリウッド)楽曲の大胆なサンプリングだ。BEPは、インド音楽界のレジェンドである Asha Bhosle (アシャ・ボスレ) の楽曲をフックの構成要素としてそのまま取り込み、強烈なキャッチーさを生み出した。
使用されたのは以下の2曲である。
Asha Bhosle – Ae Naujawan Sab Kuchh Yahan (1972)
Asha Bhosle – Yeh Mera Dil Pyaar Ka Diwana (1978)
Asha Bhosleといえば、その膨大なキャリアと圧倒的な存在感ゆえに「ボリウッドの象徴」とも称される最重要人物だ。これに加え、80年代R&Bのクラシックである Lisa Lisa & Cult Jam (リサ・リサ&カルト・ジャム)の『I Wonder If I Take You Home』 も楽曲のDNAとして組み込まれている。
Lisa Lisa & Cult Jam feat. Full Force – I Wonder if I Take You Home (1985)
結果として、クレジットにはAsha BhosleやKalyanji–Anandji、Indeewar、Full Forceといったオリジナルの作家たちが正式に名を連ねることとなった。推測ではなく事実として、これら全てのサンプルが公式に認められているのである。つまり本曲は、「ボリウッド × 80s R&B × 2000年代ヒップホップ」 が国境と時代を超えて公式に融合した、奇跡のような多国籍コラージュ作品なのだ。
歌詞は「切実な愛の修羅場」、曲は「極彩色のエンタメ」

楽曲のテーマ性も興味深い。中心人物であるwill.i.amは、この曲を前作『Elephunk』収録のヒット曲「Shut Up」と関連付けて語っており、男女関係のやり取り、特に別れ際における感情の食い違いを、コミカルかつ切実に描く意図があったとしている。
歌詞そのものは割と真面目だ。 男女の関係におけるもつれと不信、そして「これ以上、私の心を弄ばないでくれ」という、恋愛の駆け引きにおける「本音」と「建前」のズレを描いたものである。
しかし、曲が放つ雰囲気はどうだろうか。深刻な恋の悩みを歌っているはずなのに、バックで流れているのはインド映画特有のきらびやかさと高揚感。このギャップこそがBEPらしいユーモアの正体だ。 特にFergieが放つ “No, no, no, no, don’t phunk with my heart” の連呼は、当時クラブで流れるたびにフロアの全員が合唱するほどの「鉄板フレーズ」となった。サンプリング由来のキャッチーさが、重たいテーマを極上のエンターテインメントへと昇華させているのである。
MVはまさかの「恋愛リアリティショー」パロディ

そのユーモアはミュージックビデオ(MV)でさらに加速する。映像の舞台となっているのは、なんと 「恋愛ゲームショーのパロディ」 だ。
アメリカの人気デーティング番組やゲームショーをモチーフにしており、will.i.amのいかにも司会者っぽい胡散臭い仕草や、Fergieの「ガチでキレている」ような表情、そしてメンバー全員の「なんでそんな格好をしているんだ?」とツッコミたくなる衣装など、彼らの遊び心が全開になっている。
テレビ的な舞台装置やキャラクター設定を導入することで、歌詞にある「駆け引き」や「駄目出し」といったテーマを視覚的にわかりやすく、かつ軽妙に翻案してみせたのだ。ライブやMVでの「見せ方」を熟知していた彼らならではの演出と言えるだろう。
当時のBEPは「最強」だった

この曲が残した実績を見れば、当時のBEPがいかに破竹の勢いだったかがわかる。
- チャート成績: 米国Billboard Hot 100で最高3位。オーストラリア、フィンランド、ニュージーランド、チェコなど世界各国で1位を獲得。
- グラミー賞: 第48回グラミー賞にて「Best Rap Performance by a Duo or Group」を受賞し、「Best Rap Song」にもノミネート。
アルバム『Elephunk』で火がつき、『Monkey Business』で世界を制したこの時期のBEPは、「ポップ × ヒップホップ × ワールドミュージック」 を最も巧みにミックスできるグループとして、商業面・批評面ともに大成功を収めた。多様なサンプリング文化を正面から取り入れつつ、大衆的なポップスターへと成長した彼らは、まさに2000年代中盤の音楽シーンを象徴する存在だったのだ。
まとめ
『Don’t Phunk with My Heart』は、以下の要素が完璧に噛み合った一曲である。
- ボリウッド音楽をポップスに変換する卓越したセンス
- 重たい恋愛テーマをエンタメ化してしまう器用さ
- BEP黄金期特有の圧倒的な勢い
真面目に分析すればするほど、「なんでこの組み合わせがこんなにハマるんだ?」という疑問が湧いてくる。だが、それこそがBlack Eyed Peasの魅力だ。 世界中のリスナーが、2005年当時にこの曲を聴いて 「意味はよくわからないけど、めちゃくちゃ良い!」 と熱狂したのは、ある意味で当然のことだったと言えるだろう。
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