2022年7月21日、ウェストロンドン出身のラッパー、Central Cee (セントラル・シー)が放ったシングル「Doja」は、わずか1分37秒という極端な短さでありながら、世界中の音楽シーンに巨大な爪痕を残した。この楽曲は単なるヒット曲ではない。計算し尽くされた戦略によって、彼をローカルなスターからグローバルなアイコンへと押し上げた、キャリア最大の転換点である。
Central Cee – Doja (2022)
確信犯的な「問い」と、Doja Catというミスリード

まず人々の耳を掴んだのは、あまりに挑発的なサビのラインだった。
「How can I be homophobic? My bitch is gay」
(俺が同性愛嫌悪なわけないだろ? 彼女はゲイなんだから)
このフレーズはリリース直後からSNSで爆発的な論争を巻き起こした。ドリルシーンに根強く残る偏見に対する皮肉なのか、あるいは単なる話題作りか。少なくともこの一行が強烈な“ショックバリュー”を持つことは、多くの海外メディアでも指摘されており、聴き手の注意を一瞬で引きつけるために意図的に配置されたラインであることは間違いない。
また、「Doja」というタイトルも巧妙な仕掛けだ。米国の人気アーティスト、ドージャ・キャットを想起させるが、楽曲自体は彼女について歌ったものではない。Central Ceeは「響きが良いし、みんなが勘違いするのも面白いと思った」と語っており、リスナーをあえてミスリードさせることでクリックを誘発する、現代的なセルフブランディングの才を見せている。
2000年代の記憶を呼び覚ます、緻密なサウンド設計
音楽的な成功を支えたのは、プロデューサーのLiTekとWhyJayによる卓越したトラックだ。 楽曲には、EveとGwen Stefaniの2001年のヒット曲「Let Me Blow Ya Mind」のフレーズがサンプリングされている。
この構成は、重苦しく硬派な従来のUKドリルとは一線を画す。ブリットポップやR&Bの要素を取り入れることで、ドリルに馴染みのない層にも刺さる「ポップ性」を獲得した。Central Cee自身も「説明不要のフック」として、世代を超えて刺さるあのメロディを意図的に借りたのである。
Eve feat. Gwen Stefani – Let Me Blow Ya Mind (2001)
TikTok時代の「最短最適化」戦略
「Doja」の異常な短さは、未完成ゆえではなく、ストリーミング時代への完全な最適化の結果だ。 「今の時代、人々の集中力は短い。ならば最初から最後までスキップされずに聴かれる曲を作るべきだ」という彼の哲学に基づき、イントロからサビまでを極限まで圧縮。結果として、TikTokでのミーム化を加速させ、ストリーミングの回転数を爆発的に跳ね上げることに成功した。
ビジュアル面でも、この曲は明確に“世界”を見据えていた。ミュージックビデオを手がけたのは、アメリカの人気映像プロデューサー Cole Bennett(Lyrical Lemonade)。UKアーティストが彼を起用するのは当時としては異例であり、この時点でCentral Ceeがアメリカ市場、ひいてはグローバル市場を強く意識していたことがうかがえる。
世界を制した数字と、その後の軌跡
結果は数字が証明した。
「Doja」はUKシングルチャートで2位を記録し、ニュージーランドやギリシャでは1位を獲得。Billboard Global 200では19位、Global Excl. U.S.では13位にランクインし、名実ともにグローバルヒットとなった。
ストリーミング面でも、この曲はSpotifyにおいて当時、UKラップ曲として最も再生された楽曲のひとつとなり、Central Ceeの名前を一気に世界へと押し広げる決定打となった。
そしてこの成功は、後の大ヒット曲「Sprinter」や、アルバム『Can’t Rush Greatness』へと続く流れの出発点となっていく。
結論:時代を象徴する「実験」の成功
Central Ceeの「Doja」は、現代の音楽シーンにおけるヒットの法則を体現している。 「挑発的なリリック」「親しみのあるサンプリング」「極端に短い尺」「SNSとの親和性」。これらすべてを意図的に組み合わせ、UKラップの国際進出における理想的な成功例を作り上げた。
1分37秒。その短い時間に凝縮された野心と戦略は、今日も世界中のスピーカーから流れ続け、彼がもはや一国のラッパーではないことを証明し続けている。
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