「彼はもう一度UKに帰ってきた」──そんな言葉がSNSを駆け巡ったのは、2025年7月24日の夜だった。
その発端は、カナダ出身のラッパーDrake (ドレイク)と、ロンドンを拠点とするCentral Cee (セントラル・シー)による新曲「Which One」のサプライズリリースである。
この楽曲は、Drakeが手がけるライブ配信シリーズ『Iceman』の第二回で突如披露されたものであり、ロンドンの夏の空気をそのまま閉じ込めたような、洗練されたクラブアンセムとして注目を集めている。
Drake feat. Central Cee – Which One (2025)
進化した再共演、「On the Radar」から「Which One」へ

両者の共演はこれが初めてではない。2023年に発表されたフリースタイル「On the Radar」での競演では、UKドリルとトロント由来のメロディアスなフロウが衝突し、多くのリスナーを熱狂させた。
それから2年、彼らの影響力は世界中に拡大し、スタイルもさらに磨かれていった。その結果生まれた「Which One」は、ただの“再会”ではない。むしろ、異なるスタイルが高次元でぶつかり合う“進化した衝突”と言うべきものである。
プールサイドから放たれた誘惑──ライブ配信『Iceman』での初披露
「Which One」が初披露された場面もまた、Drakeらしい演出だった。
舞台はなんと空のスイミングプール。ロンドンの夜景を背景に、煌びやかな空間で再生されたこの曲は、まるでDrakeのライフスタイルそのものを音に変換したような演出だった。
そして、そのサウンドに続くかたちで登場したCentral Ceeのバースは、映像と音のコントラストをさらに際立たせていた。
Drakeのパートでは、メロウで倦怠感を漂わせたトーンが印象的であり、「女は星の数ほどいる──だが選ぶのは俺だ」とでも言いたげなフックが、聴く者を瞬時に引き込んでいく。
対するCentral Ceeはは、タイトなフロウと鋭いアティチュードで応戦。UK特有のリズムと皮肉を効かせ、楽曲全体に緊張感と抑揚をもたらしている。
この絶妙なバランスこそが、「Which One」の最大の魅力である。
アフロビーツ、ダンスホール、トラップ──三つ巴のグローバルサウンド
プロデューサーには、Drake作品でおなじみのOZとO Lil Angel、そしてB4Uが名を連ねている。
彼らが手がけた「Which One」のビートは、アフロビーツ、ダンスホール、トラップを絶妙にミックスしたミニマルな仕上がりで、聴く者の耳に心地よい中毒性をもたらす。
注目すべきはその“抜け感”である。常に鳴っているキックとベースの合間に、広がるような空間が存在する。その隙間に、Drakeの気怠い歌声と、Central Ceeの鋭く率直な言葉が巧みに滑り込む。
それは、いわば「音の引き算」の美学──過剰に詰め込まず、余白によって深みを生み出す現代的なクラブミュージックの潮流そのものと言える。
チャートの動きと、アルバム『Iceman』への布石
リリース直後、「Which One」はApple MusicやSpotifyのチャートで急上昇を見せ、アメリカ、イギリスをはじめ、カナダ、オーストラリア、ドイツなど、世界各地で上位にランクインしている。
Billboardの速報によれば、来週の全米シングルチャートではTop 10入りが濃厚とされており、もし実現すればDrakeにとって通算84作目のトップ10ヒットとなる。
この曲は、Drakeの次なるアルバム『Iceman』からの第2弾シングルであり、“クラブサイド”を象徴するトラックだと位置づけられる。
一方で、7月上旬に発表された第1弾シングル「What Did I Miss?」では、彼がKendrick Lamarとの確執ののちに抱いた心境が赤裸々に綴られていた。
敵と味方の境界が曖昧になっていく状況を冷ややかに描写し、自身を“裏切った”と感じている周囲の人々──たとえばKendrickのライブに姿を見せたLeBron JamesやDeMar DeRozanといった旧友たち──に対し、失望をにじませながらも一石を投じていた。
『Iceman』という作品が、個人の内面と外界の熱狂、その両極を行き来するコンセプトを持つとすれば、「Which One」はその中で最も享楽的で、そして最も洗練された側面を担う一曲であるといえるだろう。
Drake – What Did I Miss?
おわりに
「Which One」というタイトルが意味するのは、単に「どちらを選ぶか」ではない。
それはむしろ、「誰が選ばれるか」、いや、「選ぶのは自分だ」と主張する立場からの問いかけである。
この優位性の構図は、Drakeが長年築き上げてきた“孤高のプレイヤー”としてのアイデンティティと、Central Ceeが現在進行形で体現しつつある“UKラップの象徴”というポジションが交錯することで、強烈な説得力を帯びている。
「Which One」は、深夜のクラブで、ラグジュアリーなホテルラウンジで、あるいは真夜中のドライブで──
“選ばれる快楽”を求めるすべての場所にフィットする、そんなグローバル・クラブサウンドとして鳴り響くに違いない。
関連記事はこちら





コメント