Jadakiss(ジェイダキス)のソロデビューを象徴する「We Gonna Make It」は、70年代ソウルの華やかなホーンセクションを武器に、ニューヨーク・ヒップホップの黄金律を定義した一曲だ。Alchemist(アルケミスト)によるこの伝説的なビートは、NasやJay-Zの元を巡り、Ras Kassとの泥沼の権利争いを経てJadakissに届いたという「ヒップホップ史上最もドラマチックな背景」を持つ。リリースから25年近くが経つ今、本作がなぜ人生の勝利を祝う不朽のアンセムとなったのか。その裏側に迫る。
🎧 クイック概要:10秒でわかる基本データ
| 項目 | 内容 |
| アーティスト / 曲名 | Jadakiss feat. Styles P / We Gonna Make It |
| 収録アルバム | 『Kiss tha Game Goodbye』 (2001) |
| サンプリング元 | Samuel Jonathan Johnson / My Music (1978) |
| 最高位 | Billboard Hot Rap Singles 2位 (アルバムは全米5位を記録) |
ニューヨークの王たちが「見逃した」至宝のトラック

この曲の心臓部である劇的なビートは、Alchemistがまだ駆け出しの頃に制作したキャリア初期の傑作だ。しかし、この音がJadakissの元に落ち着くまでには、大物たちの「ニアミス」が存在した。
Alchemistは、このビートをまず Jay-Z に聴かせたが、彼は採用を見送った。次に持ち込んだ Nas はこの音を非常に気に入り、しばらくキープ(On hold)していた。しかし、Nasがレコーディングを先延ばしにしている間に、Hi-Tekプロデュースの「My Way」が先に完成してしまう。Nasは「My Way」と似た雰囲気の曲をアルバム(Stillmatic)に複数入れたくないという理由で、最終的にAlchemistのビートを返却した。トップランナーたちがこのポテンシャルを手放したことが、結果としてJadakissに最大の武器を与えることとなった。
Ras Kassとの泥沼ビーフ:二重売りの真相
この曲を語る上で避けて通れないのが、西海岸の技巧派 Ras Kass(ラス・カス) との深刻な確執だ。
実は、AlchemistはこのビートをRas Kassにも提供しており、Ras Kassはすでに「Home Sweet Home」という曲を録音していた。Alchemist側は「代金が支払われなかったためJadakissに売った」と主張したが、Ras Kassは「すでに手付金を支払い、残金も用意していた」と真っ向から反論。先にRas Kass版がストリートで流出したことで、MTVニュースを賑わす泥沼の「二重売り」論争に発展した。最終的にJadakiss版が世界的な大ヒットを記録し、ニューヨークのアンセムとなったことで、このビートは名実ともに「Jadakissの音」として歴史に刻まれることとなった。
70年代ソウルを「勝利の音」へ変えたサンプリング
この曲の「勝ち確」な雰囲気の正体は、1978年にリリースされた Samuel Jonathan Johnson の「My Music」だ。
- サンプリング手法: Alchemistはイントロの華やかなホーンとストリングスを絶妙なピッチでループさせ、そこに重厚なドラムを重ねた。高揚感とハードコアな質感を共存させたこの構成は、トラックメイカーの間で「サンプリングの教科書」と称されている。
原作者のサミュエルは、インタビュー等で「自分の音楽が新しい文化に抱擁されたことは誇りであり、光栄だ」と語り、このサンプリングを全面的に支持している。
盟友 Styles Pとの絆:1+1が100になる掛け合い

本作のエネルギーを支えているのは、Jadakissと相棒 Styles P による「Back-and-forth(掛け合い)」スタイルだ。
二人は1バースずつ交代するのではなく、数ラインごとに言葉のバトンを繋いでいく。これは彼らがグループ「The LOX」として長年磨き上げてきた職人技であり、「相手の息遣いだけで次のリリックがわかる」という極限の信頼関係から生まれたものだ。Jadakissの代名詞であるハスキーな笑い声「A-haaa!」が、この勝利の宣言に不敵な説得力を与えている。
結論:なぜ20年以上経っても古びないのか?

2021年の「VERZUZ(The LOX vs Dipset)」でのパフォーマンスが証明した通り、この曲は今やニューヨークの「第二の国歌」である。
どんな逆境にいても「俺たちはやり遂げる(We Gonna Make It)」というシンプルで力強いメッセージは、音楽の枠を超え、アスリートやビジネスマンの勝負曲として定着した。緻密なサンプリング、ラッパーとしての誇り、そして数々の因縁。そのすべてが、この曲を「永遠のクラシック」へと昇華させたのである。
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