Justin Timberlake(ジャスティン・ティンバーレイク)とSZA(シザ)。この意外とも思える二人の名前が並んだとき、音楽ファンが抱いた期待感は相当なものだった。2020年2月にリリースされた「The Other Side」は、単なるアニメ映画の主題歌という枠組みを超え、現代ポップスと黄金期のディスコサウンドが見事に融合した一曲だ。
🔬 世代とジャンルを超えた「化学反応」

この曲は、ドリームワークスのアニメ映画『トロールズ ミュージック★パワー』のリードシングルとして誕生した。しかし、制作陣の顔ぶれを見れば、これが単なる「子供向け」ではないことは一目瞭然だ。
ジャスティン・ティンバーレイク自身がプロデュースとエグゼクティブ・プロデューサーを兼任し、共作には映画音楽でオスカーを手にしたルドウィグ・ゴランソンや、世界的ヒットメーカーのマックス・マーティンが名を連ねている。そこに現代R&Bシーンのミューズ、SZAが加わった。
制作現場では、ジャスティンが「曲に“ユニコーン(魔法のようなスパイス)”が足りない」と冗談を飛ばしながらベースラインを練り上げたという。ベテランの遊び心と、SZAの瑞々しい感性がスタジオでぶつかり合い、世代も背景も異なる二人の間に幸福なシナジーが生まれたのだ。
🔈「隣の芝生」に惑わされないためのアンセム

音楽的には、70〜80年代のディスコやファンクを現代的なポップスの文脈で再解釈している。軽快なハンドクラップと中毒性の高い鍵盤のリフ。聴き進めるうちに、無意識に体がリズムを刻んでしまうような、抗いがたいグルーヴがそこにはある。
特筆すべきは、その歌詞に込められたメッセージだ。サビで繰り返される “The grass ain’t always greener on the other side” というフレーズ。日本語の「隣の芝生は青い」という言葉通り、私たちはつい「ここではないどこか」を羨んでしまいがちだ。
しかし、この曲は映画のオープニングを華やかに彩りながら、「向こう側がいつも良いわけじゃない」と軽やかに歌い飛ばす。他人と比較して消耗するのではなく、今の自分を肯定して前を向く。そんな普遍的でポジティブな哲学が、ダンスフロア仕様のビートに乗せて届けられる。
🎥 視覚で楽しむ90年代へのオマージュ

ダニエル・ラッセルが監督を務めたミュージックビデオの仕上がりも心憎い。フィッシュアイレンズを多用したカメラワークや、銀色の世界で煌びやかな衣装を纏って踊る二人の姿は、90年代のヒップホップやR&Bの黄金時代を彷彿とさせる。
ミッシー・エリオットやパフ・ダディのMVを手掛けたハイプ・ウィリアムスへのオマージュを感じさせるこの映像美は、楽曲が持つファンキーなルーツを視覚的にも強調した。このノスタルジックながらも新しい表現が、子どもから大人まで、幅広い層のリスナーを引きつける要因となった。
✍️ 色褪せないポップ・ディスコの傑作
「The Other Side」は、リリースから時間が経過した今でも、決して古びることのない輝きを放っている。
それは、ジャスティン・ティンバーレイクの確かなプロデュース能力と、SZAの唯一無二の歌声、そして超一流の制作陣が「本気でポップスを楽しもう」とした結果だろう。映画の世界観である「多様性」や「自分らしさ」を体現しつつ、一曲の独立したエンターテインメントとして完成されたこの曲は、今日もどこかで誰かの背中を、軽快なリズムで押し続けている。



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