1991年にデビューアルバム「2Pacalypse Now」を発表した2Pac (トゥーパック)は、1993年にセカンドアルバム「Strictly 4 My N.I.G.G.A.Z…」をリリース。
収録曲「I Get Around」が全米チャート11位を記録し、2Pacがブレイクするきっかけとなりました。
今回は、このアルバムから3枚目のシングルで、Dave Hollisterがコーラスに参加した「Keep Ya Head Up」をピックアップ。
ここでは、2Pacがこの曲に込めた思いと元ネタについて解説します。
2Pac – Keep Ya Head Up (1993)
“Keep Ya Head Up” 楽曲情報
レーベル
Interscope Records
Jive Records
プロデューサー
DJ Daryl
元ネタ・サンプリング
Zapp – Be Alright (1980)
Five Stairsteps – O-O-H Child (1970)
“Keep Ya Head Up” 元ネタ・サンプリング①
Zapp – Be Alright (1980)
元ネタになったのは、オハイオ州デイトンで結成したファンクバンドZapp (ザップ)の「Be Alright」(1980)です。
デビュー前のZappは、地元オハイオ州で頻繁にライブを行っており、これを見たParliament-FunkadelicのメンバーBootsy Collins、Catfish Collinsが彼らを見出し「More Bounce to the Ounce」のデモを制作、レコーディングを敢行。
その後、Parliament-Funkadelicを率いていたGeorge Clintonの勧めで、Warner Bros. Recordsにデモテープを提出し、1979年初めにWarner Bros. Recordsと契約を結びます。
Bootsy Collinは、当時の制作過程について、George Clintonのアドバイスが「天才的な行為だった」と述べています。
George Clintonはその夜たまたまスタジオに入ってきて、俺らが「Funky Bounce」ですでに作り直していたこのパートをとても気に入ってくれたんだ。 彼は、その部分をループさせて、その上に他のトークボックス・パートを乗せるようにアドバイスしてくれたんだ。 当時、これは天才的な行為だと思われていた。 なぜなら、実際にテープを切って、うまくカットし、それを並べてループさせなければならなかったからね。 だから「Dr. Funkenstein」(Parliamentの曲)も時代の最先端を走っていたことを忘れてはならないね。
1980年、Roger TroutmanとBootsy CollinsがプロデュースしたZappのデビューアルバム「Zapp」(1980)がリリースされ、アルバムはR&Bチャート1位を獲得。
このアルバムからのセカンドシングルとなった「Be Alright」は、その後2PacやR&BグループのH-Townなど、40曲以上でサンプリングされています。
H-Town – Knockin’ Da Boots (1993)
“Keep Ya Head Up” 元ネタ・サンプリング②
Five Stairsteps – O-O-H Child (1970)
さらに2Pacの「Keep Ya Head Up」は、イリノイ州シカゴ出身のソウルグループFive Stairsteps (ファイヴ・ステアステップス)の「O-O-H Child」(1970)をサンプリングしています。
彼らの4枚目のアルバム「Stairsteps」(1970)に収録されたこの曲は、全米チャート8位を記録し、グループ最大のヒット曲、彼らの代表曲となりました。
また、後にローリングストーン誌の「史上最も偉大な500曲」にも選出され、The Spinners、Mary Wilsonなど30組以上のアーティストにカバーされています。
The Spinners – O-o-h Child (1970)
Mary Wilson – Oooh Child (1989)
2Pacが「Keep Ya Head Up」について語る
![](https://music-dictionary.com/wp-content/uploads/2022/11/2Pac-1024x576.jpeg)
「Keep Ya Head Up」のMVの冒頭には「Dedicated to the memory of LATASHA HARLINS… it’s still on」と文字が映し出されています。
Dedicated to the memory of LATASHA HARLINS... it's still on LATASHA HARLINSの思い出に捧げる…まだ続くよ
これは、ロサンゼルスの韓国系アメリカ人経営の店で万引き犯と間違われ、15歳の若さで射殺された黒人女性、Latasha Harlinsに向けられたものです。
この事件は、同店の冷蔵庫からオレンジジュースを手に取り、バッグに入れ、2ドルを手に支払いをしようとしたところ、オーナーの韓国系アメリカ人がジュースを盗んだと勘違いし、バッグをカウンターに引っ張ったところ、レジ内でもみ合いになったようです。
Latasha Harlinsは、店主を倒しましたが、バッグからオレンジジュースをカウンターに戻して立ち去ろうとしたところ、店主は彼女の背後から発砲し、警察が駆けつけたときには亡くなっていました。
この事件により、店主は罰金、保護観察、社会奉仕と軽い刑で済みましたが、これが黒人活動家の怒りを煽り、1992年のロサンゼルス暴動の原因の一つとも言われています。
また、アルバム「Strictly 4 My N.I.G.G.A.Z…」に収録されている「Something 2 Die 4 (Interlude)」では、Latasha Harlinsに向けて語っており、生前の2Pacは黒人女性や警察とのトラブルについてラップすることについて、次のように明かしています。
La'tasha Harlins, remember that name... ラ・ターシャ・ハーリンズ、その名を忘れるな... 'Cause a bottle of juice... it's not something to die for ジュース一本で......死ぬほど大変なことではないよ
2Pac – Something 2 Die 4 (Interlude)
俺が言うことは、他の誰も言わないと思うんだ。 「Keep Ya Head Up」の前に黒人女性について書いたのは誰かいたのか? 今は誰もが黒人女性についての曲を歌っている。 俺が黒人女性について書いていたとき、誰が書いていたんだ? 誰が自分自身の問題について書いていたんだ? 俺は「なんでもないこと」ではなく、自分の本当の問題を話していたんだ。 俺は警察との問題をリアルに抱えていた。 人生について、黒人であることについて、なぜこんなに踏みにじられるんだろうって、本当に困っていたんだ。 でもその後、俺は成功したんだ、まだ踏まれているのに。 背中に靴跡があるのに、どうして成功してるんだ? それが信じられなかった。 だから家を出て、郵便局に行って、銃を乱射して、100万年刑務所に入る代わりに「もういいや、俺はここでラップしてるんだ」と言ったんだ。 本当に起こっていることをラップすればいいじゃないかって。
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