Kanye West (カニエ・ウェスト)が2013年に発表した6枚目のアルバム『Yeezus』は、エレクトロ、パンク、シカゴ・ドリルなど多様なジャンルを取り入れた攻撃的かつ革新的なサウンドが特徴的で、全米アルバムチャート1位を獲得しました。このアルバムは、その後世界中のチャートでも成功を収め、2013年を代表するラップアルバムとなりました。さらに、2020年には『Rolling Stone』の「史上最高のアルバム500」において269位にランクインするなど、その影響力は今もなお強いものがあります。
今回は、このアルバムからセカンドシングルとしてリリースされた「Bound 2」(2013年)に焦点を当て、その元ネタとなる楽曲や裏側について詳しく解説します。この楽曲には、アメリカのソウルシンガーCharlie Wilson (チャーリー・ウィルソン)をフィーチャーしており、Kanyeがどのようにして過去の名曲を現代の音楽に昇華させたのかを見ていきましょう。
Kanye West feat. Charlie Wilson – Bound 2 (2013)
『Bound 2』元ネタ・サンプリング情報①
Wee – Aeroplane (Reprise) (1977)
「Bound 2」のサンプリング元となったのは、1970年代に結成されたソウル・ファンクグループWee (ウィー)の「Aeroplane (Reprise)」(1977年)です。
このグループは、ソウルシンガーNorman Whitesideによって結成されましたが、当時は商業的な成功を収めることができず、グループは解散。その後、Norman Whitesideは犯罪に手を染め、長年音楽の世界から遠ざかることとなりました。
しかし、シカゴのレーベル「Numero Group」が彼の音楽を再評価し、2008年にWeeのアルバムが再発されると、徐々にその存在が再注目されることに。Kanye WestやFrank Ocean、Freddie Gibbsなどのアーティストが彼の音楽をサンプリングし、Norman Whitesideの名は新たな世代に広まりました。
『Bound 2』元ネタ・サンプリング情報②
Ponderosa Twins Plus One – Bound (1971)
さらに、「Bound 2」には、オハイオ州クリーブランドで結成されたソウルボーカルグループPonderosa Twins Plus One (ポンデローザ・ツインズ・プラス・ワン)の「Bound」(1971年)もサンプリングされています。このグループは、最初のシングル「You Send Me」が全米R&Bチャートで成功を収め、アルバム『2 + 2 + 1 = Ponderosa Twins Plus One』をリリース。
しかし、その後グループは資金不足に陥り、1975年には解散してしまいます。ところが、Kanye Westが「Bound 2」でこの楽曲をサンプリングしたことにより、2013年にグループのメンバーだったRicky Spicerは著作権侵害でKanyeやレーベルを訴えました。この訴訟は、最終的に和解によって解決されましたが、この一件をきっかけにPonderosa Twins Plus Oneの音楽が再評価され、2013年と2022年にアルバムが再発されました。
「Bound 2」の制作背景と評価

「Bound 2」は、Kanye Westの独特なプロダクションスタイルが光る楽曲で、批評家からも高く評価されました。特に、グラミー賞では2部門にノミネートされ、プロデューサーのRick Rubinがその制作過程について語ったエピソードは興味深いものです。
この曲はもともと、あのメインのサンプルなしで書かれていたんだ。最後の最後に追加されたものだった。もともとの曲にはR&Bの要素がかなり入っていたんだけど、カニエが「好きなだけ削っていいけど、追加はするな。ただ削るだけだ」と指示を出したんだ。「OK、わかった」ってね。 それで、その前に一緒にサンプルを聴いて、「もしかしたら、この曲にうまく取り入れる方法があるかもしれない」と考えたんだ。まずはサンプルを曲の中で機能させることから始めて、できるだけ多くの要素を削っていった。そして、サビの部分では、もともとあった音楽的な要素をどんどん減らして、最終的に歪んだ汚いベースノート一発にしたんだ。 Alan VegaやSuicideみたいな、あのノイズシンセのミニマルな雰囲気をイメージしていたよ。 だから、サビのアイデアは、もともとのR&B的な要素を、ポストパンクっぽいエッジの効いたものに変えることだった。そして、カニエが書いた歌詞がめちゃくちゃ良くて、しかも面白かった。 それが結果的に、本当に良い曲になったんだ(笑)。あのサンプルは最高だよ。
その後の影響
また、「Bound 2」は、その後イギリスのプロデューサーデュオSigmaによって「Nobody to Love」というブートレグリミックス(海賊版)として無料配信され、後にオリジナルのボーカルを加えて再構成され、商業リリースされました。このリミックスは、UKシングルチャートで1位を獲得し、ポーランドやニュージーランドでも1位を獲得するなど、Sigmaの名前を世界中に広めるきっかけとなりました。
Sigma – Nobody To Love
おわりに
Kanye Westの「Bound 2」は、ただのラブソングにとどまらず、過去のソウルやファンクの名曲を巧みにサンプリングし、現代に蘇らせることで音楽の歴史をつなぐ重要な役割を果たしました。その革新的なプロダクションと深い音楽的背景を知ることで、この楽曲の魅力が一層深まることでしょう。Kanyeがどのようにして過去の名曲を現代に生かし、新たな世代に影響を与えたのかを理解することは、彼のアーティストとしての革新性をより深く理解する手助けとなります。
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