2004年のデビューアルバム「The College Dropout」は、発売初週に44万枚を売り上げ、全米チャート2位を記録し、グラミー賞では2部門にノミネートされ、そのうち「最優秀ラップアルバム」を受賞したKanye West (カニエ・ウェスト)。
その後、ローリングストーン誌による「史上最高のアルバム500選」に選ばれたほか、多くのメディアから「史上最高のアルバムの1つ」に挙げられるなど、2000年代を代表するアルバムのひとつとなりました。
今回は、そんな華々しいデビューを飾った彼のデビューシングル「Through the Wire」(2003)をピックアップ。
この曲は、もともと彼のミックステープ「Get Well Soon…」(2002)に収録されていましたが、再録され、アルバムからのリードシングルとしてリリースされました。
ここでは、この曲の元ネタと制作の裏側を解説します。
Kanye West – Through the Wire (2003)
“Through the Wire” 楽曲情報
レーベル
Roc-A-Fella Records
Universal Music Group
プロデューサー
Kanye West
元ネタ・サンプリング
Chaka Khan – Through the Fire (1984)
“Through the Wire” 元ネタ・サンプリング情報
Chaka Khan – Through the Fire (1984)
元ネタになったのは、イリノイ州シカゴ出身のシンガーChaka Khan (チャカ・カーン)の「Through the Fire」(1984)です。
バンドRufusのメンバーだった彼女は、グループ活動の傍らソロキャリアでも成功を収め、1983年にRufus & Chaka Khanとしての最後のアルバム「Stompin’ at the Savoy – Live」をリリースし、バンドは解散しました。
翌年「Through the Fire」を収録した5枚目のソロアルバム「I Feel for You」(1984)をリリース。
同タイトルでのアルバム収録曲で、Princeのカバーである「I Feel for You」でグラミー賞「最優秀R&Bボーカル・パフォーマンス賞」を受賞しています。
Chaka Khan – I Feel for You
曲名は折れた顎を固定していたワイヤーを指している?
Kanye Westの「Through the Wire」は、彼が交通事故による入院中の出来事からインスピレーションを得て制作されたようです。
これは2002年10月、Kanye Westはカリフォルニアのレコーディングスタジオで、Beanie Sigel、Peedi Crakk、The Black Eyed Peasの楽曲を制作していたようで、深夜3時頃レンタルのレクサスでスタジオを出た後、車に割り込まれ、他の車と衝突する事故に巻き込まれたようです。
曲中で「Biggie Smalls(The Notorious B.I.G.)が死んだ病院と同じ」とラップしているように、彼はロサンゼルスの病院に運ばれ、顎を3カ所骨折して顎と顔をワイヤーで固定して入院することになります。
彼は、口をワイヤーで閉じて病院のベッドに横たわっていると、CDプレーヤーからChaka Khanの「Through The Fire」が流れ「Right down to the wire, even through the fire」というラインをメロディックに歌う彼女の声が聞こえてきたようです。
これにインスピレーション得たKanye Westは、入院から2週間後に顎をワイヤーで閉じた状態でスタジオ入りしてレコーディングを敢行し、その経験を見事に歌にしました。
また一方、サンプリングされたChaka Khanは、Kanye Westの事故や楽曲使用に至る経緯を本人から電話で聞いて許可を出しましたが、リリースされた曲の原曲のピッチが上がり、フックのスピードが上がったことに腹を立てていたようです。
病院から退院したばかりの彼から電話があったわ。 彼は『あなたは俺の治癒にとても役に立った。 この曲の歌詞を少し変えたんだけど、俺はワイヤーを通して食べなければならなかったんだ。 ストローで顎をワイヤーで閉じてね。それだけで俺に意味があったよ』って。 本当に胸が熱くなり、胸が苦しくなったわ。 私は『うん、使って』って。 でも、曲が公開されたとき、私は怒ったわ。ちょっと侮辱的だった。 侮辱というより、愚かだと思ったわ。 もし彼がそうすると知っていたら、「ダメだ」と言っただろうね。
また、Kanye Westは事故や入院での出来事について「自分が置かれている状況を神に感謝するしかない…」と次のように明かしています。
この事故が言っていることはただ1つ。 「俺はお前に世界を渡そうとしている、ただいつでもお前からそれを奪うことができると知っておけ」ということだ。 もう少しで命を落とすところだったんだ、口も声も顔全体も、ラッパーとして失うところだったんだ。 しかもテレビに出なければならなかったんだ。 今となっては自分の顔がおかしく見える…。 でも、自分が置かれている状況を神に感謝するしかない…。 「Through The Wire」は俺に起きた最悪の出来事だったけど、今は最高の出来事だ。
入院中、Kanye Westの主治医はラップをしたり、話したりするのは非常に危険だと伝えていたようですが、彼はその危険を冒してでも夢を追い求め、その結果、この曲は大ヒットし、Kanye Westのキャリアに大きな弾みをつけました。
この機会に、元ネタと合わせて聴いてみてはいかがでしょうか。
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