Drake & 21 Savageの「Circo Loco」は、2022年発表のコラボアルバム『Her Loss』に収録された問題作だ。Daft Punkの名曲「One More Time」(2000年)をスロー&チョップしたサンプリングを土台に、Boi-1da・Tay Keith・Noah “40” Shebibという布陣がプロデュースを手がけた。Megan Thee Stallionをめぐる炎上歌詞がリリース直後から音楽シーン全体を騒然とさせ、批評家からは「Daft Punkを台無しにした」と酷評された一方、SNSではBillboard Hot Trending Songs 2週連続1位という矛盾した結果を生み出した、2022年のヒップホップで最も「語られた」一曲だ。
🎧 クイック概要:10秒でわかる基本データ
| アーティスト / 曲名 | Drake & 21 Savage / Circo Loco |
|---|---|
| 収録アルバム | Her Loss(2022年11月4日リリース) |
| サンプリング元 | Daft Punk – One More Time(2000年) ※「One More Time」自体もEddie Johns「More Spell on You」(1979年)をサンプリング |
| 最高位 | Billboard Hot 100:最高8位 Billboard Hot Trending Songs:2週連続1位 カナダ Hot 100:最高7位 |
| プロデューサー | Boi-1da / Tay Keith / 40(Noah Shebib) |
| ソングライター | Drake, 21 Savage, Boi-1da, Tay Keith, Lil Yachty, 40 + Thomas Bangalter, Guy-Manuel de Homem-Christo(Daft Punk) |
| シングル情報 | 2022年11月11日、イタリアのラジオ向けに配信シングルとしてプロモーション |
そもそも「Circo Loco」って何?——イビサ発、地下クラブの伝説パーティー

曲のタイトルを理解するには、まずその言葉の出所を知る必要がある。「Circoloco(サーコロコ)」とは、スペイン・イビサ島のアンダーグラウンドを代表するダンスパーティーの名前だ。
1999年7月、イタリア人プロモーターのAntonio CarbonaroとAndrea Pelinoが、イビサ空港のほぼ滑走路脇に建つクラブ「DC10」を拠点として立ち上げた。もともとはSpace(別の有名クラブ)の24時間パーティー終わりのアフターパーティーとして、月曜の朝6時から無料で始まるという、ぶっ飛んだコンセプトだった。初回の入場者数はわずか80人。「日曜に踊り明かした人たちが、さらにもう一日続ける」という発想から生まれた、文字通り「頭のおかしい」パーティーだ。
Circolocoのモットーは「No Soul for Sale(魂は売らない)」。VIPブース・ボトルサービス・豪華な照明演出——そういったものを一切排除し、ただひたすら音楽とダンスフロアに徹するという姿勢が、世界中のクラブカルチャー愛好家から熱狂的な支持を集めた。2018年にはVirgil Ablohが創設したOff-Whiteとのアパレルコラボコレクション(Tシャツ・パーカー等)をリリースし、2021年にはRockstar Games(Grand Theft Auto)と組んで「Circoloco Records」を設立するなど、音楽を超えたカルチャーブランドへと成長している。
ドレイクが曲名にこのパーティー名を選んだのは、歌詞の舞台がフランス・イタリア・ヨーロッパのナイトライフを転々とする内容であり、「Circo Loco」という言葉がそのまま「贅沢でちょっと頭のおかしいパーティー三昧の生活」を象徴するからだとされる。ドレイク自身は過去にイビサ島を訪れたことがあり、ヨーロッパのクラブシーンへの親しみは深い。
サンプリング元「One More Time」——Daft Punkが2000年に作り上げた永遠のアンセム
「Circo Loco」のビートの核となっているのは、Daft Punkの「One More Time」(2000年)だ。フランスのエレクトロニックデュオ、Thomas BangalterとGuy-Manuel de Homem-Christoによるこの曲は、アルバム『Discovery』のリードシングルとして2000年11月にヴァージン・レコードからリリースされ、英シングルチャートで2位、フランスで1位を獲得した。Mixmag誌の読者投票では「史上最高のダンス・レコード」に選ばれており、Rolling Stone誌の「史上最も偉大な500曲」にも選出されている。
「One More Time」のボーカルを担当したのは、ニュージャージー出身のハウスプロデューサー・DJ兼シンガーのRomanthony(本名:Anthony Wayne Moore、2013年没)だ。Guy-Manuel de Homem-Christoは「彼の声のファンキーさが、曲のファンキーさにぴったりだと思った」と語っており、ボーカルはAuto-Tuneで大胆に加工されてあのミラーボールが回るような浮遊感あるサウンドへと昇華された。
実は「One More Time」自体もサンプリングで構成されており、その核となるのはリベリア出身のシンガーEddie Johnsが1979年にパリで録音したディスコナンバー「More Spell on You」だ。なお、Daft Punkはこの楽曲の権利を持つフランスの出版会社GM Musipro社に対してリリース以来ロイヤルティを支払い続けていたが、Johnsへは権利関係の複雑な事情から長年一切届いていなかったことが、2021年のLA Times報道で明らかになった。Johns本人は当時ロサンゼルスの支援住宅で生活しており、ストリーミングだけで「6〜7桁に達する」とみられる金額を受け取れていなかった。
「Circo Loco」では、その「One More Time」のメロディーラインがスロー&チョップ処理でテンポを落とされ、Boi-1daとTay Keithの重低音トラップビートと組み合わせる形で使われている。高揚感あるメロディーが、暗くヘビーなヒップホップビートに引きずり込まれる——というのがこの曲のサウンド上の実験だった。
なお、Daft Punkは2021年2月にすでに解散を発表しており、「Circo Loco」リリース時点では活動休止状態。そのため「解散後の伝説バンドの名曲をこういう形で使うのか」という議論も一部で巻き起こった。
Daft Punk「One More Time」の記事はこちら。
批評家が一斉に牙をむいた——「最悪の犯罪はDaft Punkを台無しにしたこと」

リリース直後、音楽批評家たちのサンプル処理への評価は驚くほど辛辣だった。
PitchforkのPaul A. Thompsonは、「Circo Loco」のDaft Punkサンプル処理を「ひどくおろかなDaft Punkのフリップ(hammily stupid Daft Punk flip)」と表現した。HipHopDXのMatthew Ritchieは「安っぽく、魂がない」と断言。そしてPasteのJosh Svetzは「Megan Thee Stallionへのディスも批判を受けているが、この曲の最大の罪はDaft Punkの名曲『One More Time』を台無しにしたことだ」とまで書いた。
批評家たちが問題視したのは主に2点だ。ひとつは、ドレイクがDaft Punkのボーカルメロディーをほぼそのまま歌いつつ、最小限のアレンジしか加えていないこと。もうひとつは、プロデューサーたちが「One More Time」のサンプル上にドレイク定番のハイハットパターンをそのまま被せただけ、という処理の単純さだ。
VarietyのAlex Swhearは、Megan Thee Stallionへの歌詞にも触れながら「Daft Punkのサンプルという点でも、Meganの被害を軽くあしらうかのような歌詞という点でも、判断を誤った曲だ」と総括した。
「One More Time」のWikipediaページにまでこの批評が記録され、Daft Punkのディスコグラフィーの文脈でこのサンプルが否定的に言及されるほど、評価の低さは確固たるものになっている。
大炎上の震源地——Megan Thee Stallionへの「ダブルミーニング」問題

「Circo Loco」の歌詞は大きく2パートに分かれる。ドレイクの第1バースと、21 Savageの第2バースだ。
ドレイクは冒頭でヨーロッパを股にかけたセレブライフスタイルを語る。「フランス女と寝てた、セ・ラ・ヴィ(c’est la vie)」「ジェットに乗せたら全員イタリア人になる」といった具合に、フランス語・イタリア語のフレーズを散りばめながら富と放蕩をラップする。
そして問題になったのが、この一節だ。
「This bitch lie 'bout gettin' shots, but she still a stallion / She don't even get the joke, but she still smilin'」
(あの女、打ったって嘘ついてるが、それでも上物だ / ジョークの意味もわかってないのに、まだ笑ってる)
「shots(ショット)」は二重の意味を持つ。ひとつは「整形・美容注射」、もうひとつは「銃で撃たれること」だ。そして「stallion(スタリオン)」は「背が高くてグラマーな女性」を意味するスラングであると同時に、Megan Thee Stallionのアーティスト名そのものでもある。
つまりこの歌詞は、「整形で打った注射が本物だと嘘をついている女性の話」とも読めるし、「2020年にTory Lanezに撃たれたと主張しているMegan Thee Stallionは嘘をついている」という解釈も成立する。アルバムリリースの翌朝、Meganは即座にTwitter(現X)で反論した。
「stallionはTALL THICK WOMAN(背が高くてグラマーな女性)のスラングだ。みんな私の名前に弱いデマを結びつけるのはやめろ」
さらにこう続けた。
「みんなが私を攻撃する時はみんなが乗っかってくる、私が反論すると"やりすぎ"と言われる……撃たれたと言い始めてから、ずっとこうだ」
Meganの弁護士Alex SpiroもBillboardにコメントを寄せ、「Meganが銃撃被害者であることは反論の余地のない証拠がある中で、ドレイクと21 Savageは無知だ」と非難した。なお、アルバムリリースから約2か月後の2022年12月23日、Tory Lanezは陪審員裁判で3つの重罪(半自動拳銃による暴行・不法所持・過失発砲)すべてに有罪判決を受けており、Meganの主張は法的に認められた。
一方、ソングライターとしてクレジットされているLil YachtyはInstagramライブで「このバースはMeganについてではない。整形で尻を大きくしておいて、天然だと嘘をつく女性の話だ」と主張したが、ファンや評論家の反応は冷ややかだった。21 SavageはRolling Stoneとのインタビューで「ドレイクはMeganをディスするつもりはなかった」と擁護したが、ドレイク本人は今日に至るまで公式コメントを出していない。
歌詞のもうひとつの爆弾——「Free Larry Hoover」コンサートの裏側を暴露

Megan行に続くドレイクのバースには、もうひとつの爆弾が仕込まれていた。
「Linking with the opps, bitch, I did that shit for J Prince」
(敵と手を組んだのは、J Princeのためにやったことだ)
この一行が指しているのは、2021年12月9日に開催された「Free Larry Hoover Benefit Concert」だ。刑務所に服役中のシカゴ発ギャング団Gangster Disciplesの共同創設者・Larry Hooverの釈放を訴える目的で企画されたこのコンサートで、それまで長年にわたって対立していたDrakeとKanye Westが、ヒューストンの有力音楽実業家J Prince(James Prince)の仲立ちにより公然と和解し、同じステージに立つという歴史的な場面があった。
ファンは「本当に仲直りしたのか?」と期待した。しかしドレイクは「Circo Loco」の中で、あのコンサートはあくまでもJ Princeの要請に応えたものにすぎず、Kanyeと本当に和解したわけではないと示唆した。「opps(敵)と組んだのはJのためだ」という一節は、Kanyeをいまだに「敵」と位置づけていることを公言した形になる。この歌詞もSNSで激論を呼び、「ドレイクはステージで握手しながら裏では敵視していた」という批判と「正直に言っているだけ」という擁護が真っ向からぶつかった。
21 Savageのバース——静かな迫力、過小評価された貢献

ドレイクが様々な方向に火種を撒き散らす第1バースを担当したのに対し、21 Savageの第2バースは彼本来のスタイルに忠実だ。敵への威嚇と街での評判、マジックシティ(アトランタの有名ストリッパークラブ)での享楽的な時間を、あの無感情で低くぶつ切りなデリバリーで淡々とラップする。
「Circo Loco」をめぐる議論の大半がドレイクの歌詞に集中するあまり、21 Savageのバースはほとんど話題にならなかった。しかし実は21はソングライターとしてもプロデュースに関わっており、アルバム全体の楽曲構成を支えた功績は決して小さくない。
プロデューサー陣——Boi-1da・Tay Keith・40という黄金の組み合わせ
「Circo Loco」のプロデュースはBoi-1da、Tay Keith、そしてドレイクの長年の盟友Noah “40” Shebibの3名が担当した。
Boi-1daはジャマイカ・キングストン出身のカナダ人プロデューサーで、3歳のときにトロントへ移住した。Kendrick Lamarの「HiiiPoWeR」「Backseat Freestyle」、Eminemの「Rap God」、Rihannaの「Work」などを手がけたヒップホップ界の重鎮だ。ドレイクのOVO Soundのインハウスプロデューサーでもあり、両者の関係は深い。
Tay Keithはテネシー州サウスメンフィス出身のプロデューサーで、Travis Scottの「SICKO MODE」、BlocBoy JBとDrakeの「Look Alive」、Drakeの「Nonstop」などを担当し、2018年以降のヒップホップサウンドを形成したビートメイカーのひとりだ。このアルバムでは「Circo Loco」のほか「Rich Flex」なども手がけており、複数曲にクレジットされている。なお彼のトレードマークである「Tay Keith, fuck these niggas up!」というプロデューサータグは、ヒップホップ史上最も認知されたタグのひとつとなっている。
Noah “40” Shebibはトロント出身でドレイクの最大の音楽的パートナー。『Take Care』『Nothing Was the Same』などドレイクの代表作すべてに関わってきた、ドレイクサウンドの設計者そのものだ。アルバムが本来の2022年10月28日リリース予定から1週間延期になったのも、彼がCOVID-19に感染したことが原因だった。
ソングライターのひとりとしてクレジットされているLil Yachtyも見逃せない存在だ。アトランタ出身の彼は近年プロデューサーとしてのキャリアを拡大しており、『Her Loss』の複数トラックに制作面で貢献。「Circo Loco」をめぐる炎上でInstagramライブでの発言が注目を集め、この曲との結びつきが強く印象づけられた。
アルバム『Her Loss』と「Circo Loco」——ぶっ飛んだプロモーションの全貌

『Her Loss』は2022年11月4日にリリースされたDrakeと21 Savageの共作アルバムで、全16曲収録だ。ドレイクにとっては同年6月の『Honestly, Nevermind』に続く2枚目のアルバムであり、21 Savageにとっては3枚目の全米1位アルバムとなった。
アルバムは初週で404,000アルバム相当ユニットを記録してBillboard 200で首位を獲得。16曲全曲がBillboard Hot 100に登場するという快挙を達成し、うち8曲がトップ10入りした。リードシングルの「Rich Flex」はHot 100最高2位(Taylor Swiftの「Anti-Hero」に3週にわたって阻まれ首位には届かなかった)、「Major Distribution」が3位と好調の中、「Circo Loco」は8位でチャートインした。
リリースに先立つプロモーション活動も異常なほど話題を集めた。ドレイクと21 Savageは、Hailey BieberとJennifer Lawrenceの写真に21 Savageのフェイスタトゥーを合成したVogue誌の偽物の表紙を街頭で配布し、偽のNPR Tiny Desk Concert映像や、Howard Sternとのディープフェイクを使った偽インタビューまで公開した。NPRとHoward Sternは公にこのパロディを楽しんだが、Vogue発行元のCondé Nast社だけは怒った。同社はDrakeと21 Savageを商標権侵害で訴え、少なくとも400万ドルの損害賠償を請求。最終的に和解が成立したが、和解金の金額は非公開とされている。

チャート成績
| Billboard Hot 100 | 最高8位(Her Loss全16曲がチャートイン、うち8曲がトップ10入り) |
|---|---|
| Billboard Hot Trending Songs | 2週連続1位(Megan論争によるTwitterでのバイラル爆発が貢献) |
| カナダ Hot 100 | 最高7位 |
| アルバム成績(Her Loss) | Billboard 200首位(初週404,000相当ユニット) |
Billboard Hot Trending Songsというチャートは、Twitterでの言及数・エンゲージメント数をもとにランキングする指標だ。アルバムリリースの翌日から「Circo Loco」の炎上がTwitterを席巻したことで、同チャートでは2週にわたって首位に居座り続けた。皮肉なことに、批評家が最も酷評した曲が最もSNSで話題になったという構図だ。
まとめ——議論こそが「Circo Loco」の正体だった
Drake & 21 Savage「Circo Loco」は、ある意味でヒップホップの批評文化の縮図だ。サンプリング技術への議論、女性アーティストへの言及をめぐる倫理的問題、かつての敵との関係を歌詞で暴露するドラマ——これらすべてが1曲に詰め込まれている。
Daft Punkの「One More Time」という選択は、ヨーロッパのクラブ文化という世界観と最高に相性がいいという意図は明らかだった。ただし批評家たちは、その実行を「最悪」と評した。Pitchforkは「ひどくおろかなフリップ」と形容し、Pasteは「台無し」と断言した。
Megan Thee Stallionへのダブルミーニングは、アルバムリリース翌朝にMegan自身がTwitterで反応したことでSNSを制圧し、Billboard Hot Trending Songsの2週連続1位という成績を生み出した。批評家が酷評し、当事者が怒り、ファンが真意をめぐって論争する——そのすべてのノイズが、「Circo Loco」を2022年で最も「語られた」曲のひとつにした。
音楽的に褒められる曲ではないかもしれない。しかし、あれだけの議論を引き起こした曲が「忘れられる」ことはないだろう。そういう意味で、「Circo Loco」はドレイクのキャリアにしっかりと刻まれた1ページだ。
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