Drake「Hotline Bling」元ネタはTimmy Thomas?サンプリング曲・歌詞の意味・MVダンス・ミーム文化・D.R.A.M.騒動まで徹底解説

2010年代
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Drake (ドレイク)の「Hotline Bling」は、2015年にリリースされ全米チャートを席巻したR&B/ポップソングだ。Timmy Thomasの1972年の名曲「Why Can’t We Live Together」をサンプリングしており、古いソウルの温もりとメランコリックなメロディが絶妙に融合している。チャートの記録だけでなく、インターネット中にミームをばらまき、グラミー授賞式では「もらいたくない」と言い放つ——そんな前代未聞の騒動を巻き起こした1曲でもある。

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🎧 クイック概要:10秒でわかる基本データ

項目内容
アーティスト / 曲名Drake / Hotline Bling
収録アルバムViews (2016)/ボーナストラック扱い
サンプリング元Timmy Thomas「Why Can’t We Live Together」(1972)
最高位米Billboard Hot 100:最高2位(19週連続トップ10)
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「深夜、なぜもう電話してこないんだ」——シンプルすぎる失恋の嘆き

「Hotline Bling」は2015年7月31日にデジタルリリースされた。プロデューサーはドレイクと同じトロント出身のNineteen85(ナインティーン・エイティーファイブ)が担当している。

曲の内容はシンプルの極みだ。「深夜に俺へ電話してきたのに、今はもうしなくなった」という男の喪失感と嫉妬——それだけである。しかしそのシンプルさが、世界中のリスナーの胸にまっすぐ刺さった。複雑なストーリーより、たった一行の感情のほうが人を動かすことがある。「Hotline Bling」はそれを証明した曲だ。

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サンプリング元は1972年の反戦ソウル——Timmy Thomasの反応が胸熱すぎる

この曲の骨格を作っているのは、R&BシンガーTimmy Thomas(ティミー・トーマス)が1972年にリリースした「Why Can’t We Live Together」だ。インストゥルメンタルのほぼ全体がこの曲から引用されている。

プロデューサーのNineteen85は、Billboardのインタビューでこう振り返っている。車で移動中に衛星ラジオのスムース・ロックチャンネルからこの曲が流れてきた瞬間、頭の中でビートが一気に組み上がった。「家に着く前に、もう完成していた」という言葉が、その衝動の強さを物語っている。

一方、サンプリングされたTimmy Thomas本人はどうだったのか。SPINのインタビューによれば、彼はドレイクが自分の曲を使っていたことを、最初は家族から聞かされて知ったという。それでも怒るどころか、こんな言葉を残している。

「彼が私の曲を使ってどんなことをしたのか聞いて、とても誇らしかった。メッセージは変わってしまったけれど(原曲は人種間の平和を訴えた曲)、音楽としては素晴らしいと思った」

さらには「子どもたちが毎日、”パパの曲”を聴いたよって教えてくれる」と大喜びだったという。43年前の楽曲が、こんな形で再び世界中に届く——サンプリング文化の醍醐味がここにある。

なお「Why Can’t We Live Together」は、今回が初めてサンプリングされたわけではない。Sade、Steve Winwood、Joan Osborne、MC Hammerなど、時代を超えて多くのアーティストがカバーや引用をしてきた名曲だ。

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D.R.A.M.との因縁——「Cha Cha」インスパイアとリーク騒動の真相

「Hotline Bling」の正式リリース前には、こんな経緯があった。

ドレイクは正式公開よりも前に、自身の担当美容師の結婚式でこの曲をかけていた。その場にいた誰かがスマートフォンで録音してネットに上げてしまい、当時注目を集めていたバージニア州のラッパーD.R.A.M.の楽曲「Cha Cha」のリミックスだと広く思われた。

実のところ、この誤解には根拠があった。「Hotline Bling」はD.R.A.M.の「Cha Cha」にインスパイアされたビートで作られており、ドレイク自身もThe Faderのインタビューでそのつながりを事実上認め、ダンスホールのリディムカルチャーと同じ発想で作ったと説明している。実際にBeats 1 OVO Sound Radioでの正式初公開の際も「Hotline Bling (Cha Cha Remix)」とタグがつけられた。ドレイクは後にBillboardのインタビューでこの曲を「一種のカバー(quasi cover)」とも表現している。

ただし「Cha Cha」の音源そのものはサンプリングしておらず、あくまでインスピレーション元という位置づけだ。それでもD.R.A.M.は「俺の曲をジャックされた」とTwitterで感情をあらわにし、物議を醸した。ドレイクは2022年のアルバム「Her Loss」の歌詞でこの騒動をチクリと皮肉っており、因縁はいまだに語り草となっている。

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タイトルの由来は”電話帳の名前”だった——2024年に語られた制作の真実

2024年8月、ドレイクは「100 Gigs」と呼ばれる大量のアーカイブコンテンツを公開した。その中に「Hotline Bling」制作時のスタジオ映像が20本以上含まれており、ドレイク自身がタイトルの由来を初めて語っている。

驚きの事実はこうだ。ドレイクはある女性の連絡先を、ずっと「Hotline Bling」という名前で電話帳に保存していた。ベッドで一緒にいると、彼女の電話が絶えず鳴り続けていたからだ。「ベッドで一緒にいると、彼女の電話がずっと鳴りっぱなしだった。だから電話帳に”Hotline Bling”って保存した。ずっとそれが彼女の名前だったんだ」——そう語るドレイクの言葉からは、この曲が実体験から生まれた切実さが伝わってくる。

同じ映像の中では、当初はFuture(フューチャー)をフィーチャリングに入れることを考えていたことも明かしている。

「メロディーがあって、バイブスがある。書いていたとき、Shy Glizzyの曲として書いていた。だからFutureを入れようかって考えていた」

ソロ曲として完成させるという判断が、あの独特の孤独感を生んだのかもしれない。

また、The Faderのインタビューではジャマイカのダンスホール文化からの着想も語っている。

「ジャマイカでは一つのリディムに対して、みんながそれぞれの曲を作る。ラップやR&Bでそれをやったら面白いと思った。それが"Hotline Bling"だった」
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MVのダンスは”振付なし”——Director Xが語る映像の舞台裏

2015年10月19日にApple Music限定で先行公開されたミュージックビデオは、ドレイクと同じトロント出身の監督Director Xが手がけた。「HYFR」「Started from the Bottom」に続くコンビの作品だ。

ドレイクのチームからのオーダーはシンプルだった。「Sean Paulの”Gimme The Light”みたいなパフォーマンスビデオを作ってほしい」——Director XはRolling Stoneのインタビューでそう明かしている。大型セットと照明を駆使した映像美を得意とする彼らしい仕事で、トロントのRevivalスタジオで全編撮影された完全メイド・イン・トロントの作品だ。

映像内で印象的な幾何学的照明は、現代美術家James Turrellの光を使ったインスタレーション作品に似ていると多くのメディアが指摘した。Director Xは明言を避けつつも、「自分もその領域にいることはわかる。Hype Williamsのスクールで育ったから、このスタイルは自分のテリトリーだ」と語っている。なお、映像内で宙に浮いているように見える階段は、制作デザイナーのJeremy Macfarlanによれば特注溶接のトラス構造で支えられており、CGは一切使っていない。

そして最も語られたのがドレイク自身の”あのダンス”だ。Director Xは断言している。「振付ではない。あれは彼がやりたいようにやっているだけ。あれはドレイクそのものだ」——この言葉がすべてを物語っている。

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Wii BGMで踊るドレイク、Hugh Grant、SNL……ミームが止まらなかった

MV公開の翌日、インターネットは前例のないミームの嵐に包まれた。ドレイクの独特なダンス映像にあらゆる音楽を組み合わせたパロディが続出し、それがビデオのチャートアクションを実際に押し上げるという異例の現象をNMEが報じた。

特に有名なパロディをいくつか挙げておこう。

  • Wii Shop Bling:任天堂WiiショッピングチャンネルのBGMと組み合わせたマッシュアップ。Wiiを知る世代には刺さりすぎる1本
  • T-Mobile スーパーボウルCM:ドレイク本人が出演し、携帯会社の社員から歌詞に”注意書き”を加えるよう求められるコメディCM(スーパーボウル50)
  • SNL(サタデー・ナイト・ライブ):「Donald Trump/Sia」回で、トランプがドレイクの会計士に扮して歌い踊るというスケッチが放送された
  • Hugh GrantのLove Actually続編:2017年3月24日のRed Nose Dayチャリティ短編映画でHugh Grantが「Hotline Bling」に合わせてダンスを披露
  • ゲームへの登場:「Uncharted 4」のマルチプレイヤーモードにドレイクの振りを模したダンス「Bling Bling」が実装。「Heroes of the Storm」のキャラクター・Dehakaも同様の振付を持つ

アーティストたちも黙っていなかった。ジャスティン・ビーバー、エリカ・バドゥ、サム・スミスなどそうそうたる顔ぶれがカバーやリミックスを発表した。2018年4月21日(レコード・ストア・デイ)にはBillie Eilishが「Party Favor」のB面としてカバーを録音し、ピンクビニールの7インチシングルとしてリリースしている。

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最高2位、全米ダイヤモンド——そしてグラミーは「もらいたくない」

「Hotline Bling」は2015年8月22日付のBillboard Hot 100に66位で初登場。最終的に最高2位まで上り詰め、19週連続トップ10という記録を残した。1位を阻んだのはThe Weekndの「The Hills」とAdeleの「Hello」という超大物2曲だ。それでも2位というのは、いかに長くトップに居続けたかを示している。

認定・受賞実績はこうだ。

  • アメリカ:ダイヤモンド認定(1,000万ユニット超)
  • オーストラリア:7xプラチナ
  • スウェーデン、イタリア、イギリスなど各国でも大ヒット
  • 2016年 American Music Awards:Favorite Rap/Hip-Hop Song受賞
  • 2016年 MTV Video Music Awards:Best Hip-Hop Video受賞
  • 2017年 Grammy Awards:Best Rap SongおよびBest Rap/Sung Collaboration受賞

しかしグラミーの2冠が、予想外の大論争を生んだ。

ドレイクはヨーロッパツアー(マンチェスター公演)のため授賞式を欠席し、翌日にDJ SemtexとのOVO Sound Radioでのインタビューでこう言い放った。

「"Hotline Bling"はラップの曲じゃない。なのに彼らが俺を入れられるのはラップカテゴリーしかない。それは俺が過去にラップをしていたからか、俺が黒人だからか——理由がわからない」

さらに「2つの賞を受賞したけど、もらいたくない。なんかしっくりこないんだ」とも語り、音楽業界を騒然とさせた。

この発言がドレイクとグラミーの関係に深刻な亀裂を入れ、後年の授賞式欠席やノミネート辞退という流れへとつながっていく。一方でローリング・ストーン誌の「500 Greatest Songs of All Time」では373位にランクインしており、騒動を超えた音楽的評価は揺るぎない。

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批評家は絶賛、でも歌詞への批判も——文化的な問いを投げかけた曲

リリース当時から批評家の評価は高かった。Pitchforkは「Hotline Bling」をBest New Trackに選定し、「抑制されたインティメートなビート」と「ためらい、痛みに満ちた1曲」と評した。同誌の2015年ベストソングでは2位(1位はKendrick Lamarの「Alright」)。NPRは「驚くほどキャッチーで、失恋の嘆きがたっぷり詰まっている」と評し、Rolling Stone誌は年間ベストソング3位に、Village Voiceは2015年ベストシングル1位(Pazz & Jop)に選んだ。

一方で、歌詞への批判もあった。元カノの行動を批判・管理しようとする姿勢が「スラットシェイミング(性的行動への侮辱)に相当する」とFusionをはじめ複数のメディアが指摘した。男が女性の自立した生活を嘆くことへの構造的な問いかけだ。しかしその議論の白熱さ自体が、この曲が単なるポップソングを超えた文化的なアイコンになっていたことを示している。

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まとめ:美容師の結婚式から始まった、1曲の10年

「Hotline Bling」はシンプルな失恋ソングとして始まり、気づけば時代そのものを映す鏡になっていた。美容師の結婚式での流出、Timmy Thomasとの心温まるエピソード、ミーム文化の爆発、グラミーへの公然とした反発——10年経ったいまも、この1曲にまつわる話は尽きない。

ドレイクはこの曲で「感情をさらけ出せる男」としての地位を確立し、ヒップホップとポップの境界をもう一度引き直した。そしてTimmy Thomasは、43年前に作った反戦ソウルが再び世界中に届くという奇跡を体験した。それだけで、この曲がいかに特別かわかる。

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