2025年10月、Amber Mark (アンバー・マーク)が放ったセカンドアルバム『Pretty Idea』は、彼女の音楽的成熟を決定づける一枚となった。その中でも特に深い余韻を残すのが、Anderson .Paak (アンダーソン・パーク)との共演曲「Don’t Remind Me」である。9度のグラミー受賞を誇るアンダーソン・パークを迎えたこの楽曲は、ただのコラボレーションに留まらず、時代を超えたソウルと現代的なグルーヴが交錯する特別な一曲に仕上がっている。
Amber Mark & Anderson .Paak – Don’t Remind Me (2025)
70年代ソウルの温度を現代に

「Don’t Remind Me」は、一聴すると軽やかなファンクとR&Bの融合のように感じられる。しかし、その奥には70〜80年代のソウルミュージックへの深い敬意が込められている。アルバム『Pretty Idea』全体が“古き良き時代”へのラブレターとして構成されており、愛の歓びと痛み、そして心の再生というテーマが通底しているのだ。
この楽曲を支えるのは、John RyanやJulian Bunettaといったポップシーンの名プロデューサーたち。彼らが構築した暖かくレトロな音の層の上で、アンバー・マークは豊かなボーカルを響かせる。彼女の声はどこか壊れやすく、それでいて強い光を宿している。
“思い出させないで”という祈り
タイトル「Don’t Remind Me(思い出させないで)」が示すように、楽曲の核心は“忘れたいのに忘れられない”という葛藤である。
アンバーは歌う。
“I've been getting fucked up nightly / Anything that don't remind me”
酒に逃げ、記憶を麻痺させ、それでもなお蘇る恋の残像。リズミカルなビートに乗せて描かれるのは、痛みをユーモアで包み込みながらも、決して立ち直りきれない人間の弱さだ。
そのギャップこそが、この曲の最大の魅力である。体は自然と揺れ、心は静かに沈む——そんな二重構造がリスナーを惹きつける。
アンダーソン・パークがもたらした「遊び」と「深み」

この曲を特別なものにしているのは、間違いなくアンダーソン・パークの存在だ。彼のラップとボーカルは、アンバー・マークの繊細な表現に対してまるで“太陽と影”のように作用している。
アンダーソン・パークの軽妙なフロウが差し込む瞬間、楽曲全体の温度が一気に上がり、悲しみの中にも微笑みが生まれる。彼のファンキーなエネルギーが、アンバーのエモーショナルな世界をさらに際立たせているのだ。
二人の表現がぶつかり合うことで、聴く者は単なる失恋ソング以上の“生きた感情”を感じ取ることができる。
終わらない夜に寄り添う音楽
「Don’t Remind Me」は、痛みを美しく包み込む音楽である。過去を忘れたい夜、ふと再生ボタンを押してしまう——そんな魔力を持つ一曲だ。
アンバー・マークは本作で、ソウルとポップ、強さと脆さの境界を自由に行き来しながら、自身の表現をさらに拡張してみせた。そしてアンダーソン・パークという最高の相棒を得たことで、彼女の音楽は新たな次元へと到達している。
『Pretty Idea』は、単なるアルバムではない。愛に傷つきながらも前へ進もうとするすべての人に向けた、優しくも現実的なメッセージである。「Don’t Remind Me」はその象徴であり、これからも多くのリスナーに寄り添い続けるだろう。
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