1997年、ジャマイカのダンスホール・シーンから生まれた一曲が、やがて海を越え、25年以上経った今もなお世界中で鳴り続けている。Tanto Metro & Devonte(タント・メトロ & デヴォンテ)の代表曲「Everyone Falls in Love」だ。
甘く、ストレートで、少しだけ切ないこのラブソングは、90年代ダンスホールを象徴するクラシックであり、後にTory Lanez(トリー・レーンズ)が再解釈したことで新世代にも浸透した。本稿では、制作背景やヒットの裏側、そしてなぜこの曲が「永遠」なのかを解き明かす。
🎶 制作秘話:朝5時のスタジオで生まれた「偶然」

この曲の誕生には、ヒットを確信して作られたわけではない「無意識の産物」としての側面がある。
Devonteが海外メディアのインタビューで語ったところによれば、伝説的プロデューサー、Donovan Germain(Penthouse Records)から名作リディム「Up Close and Personal」を渡されたことがきっかけだった。制作は、スタジオが静まり返った早朝5時。エンジニアとDevonteの二人きりで録音が行われた。
当初、これはDevonteのソロ曲になる予定だったという。しかし、そこにTanto Metroのディージェイ(ラップ)パートが加わったことで、決定的な化学反応が起きた。Tanto Metroの低くリズミカルな語りと、Devonteの甘く伸びやかな歌声。この絶妙なコントラストが、後に世界を揺らすグルーヴを生んだのだ。
🌍 ジャマイカからBillboardへ:国境を溶かす普遍性

1997年にジャマイカ国内でナンバーワンヒットを記録した後、この曲は1998年から1999年にかけてアメリカやカナダへと飛び火する。
“Everyone falls in love sometime / I don’t know ’bout you but it ain’t a crime”
(誰もがいつか恋に落ちるもの。君がどう思うかは知らないけど、恋することは罪じゃない)
このあまりにシンプルで純粋なメッセージは、当時バイオレンスな歌詞も多かったダンスホール・シーンにおいて、逆に異彩を放った。
結果として、アメリカのBillboard Hot 100で88位、Hot R&B/Hip-Hop Songsで38位を記録。まだダンスホールが「一部のリスナー向け」だった時代に、ポップ市場に食い込んだ意義は極めて大きい。
🔥 2010年代の再燃:トリー・レーンズ「Luv」という継承
「Everyone Falls in Love」が真のクラシックである証明は、リリースから約20年後の2016年に訪れる。カナダ出身のアーティスト、Tory Lanez(トリー・レーンズ)が発表した大ヒット曲「Luv」だ。
この曲は、原曲のサビのメロディを大胆にサンプリングし、現代のトラップ/R&Bの文脈で再構築したもの。結果として世界的なヒットを記録し、フランスでゴールド認定を受けるなど、オリジナルを知らない若い世代が「原曲」へと遡る現象を引き起こした。ジャマイカのメディアは、このリバイバルを「クラシックが正式に“歴史”の一部となった瞬間」と称賛している。
🇯🇵 日本のR&Bシーンへの波及:加藤ミリヤとの共鳴
実は、この曲のメロディは日本のR&B黄金期にも大きな足跡を残している。2006年にリリースされた加藤ミリヤの代表曲の一つ『このままずっと朝まで』だ。
あの印象的なフック(サビ)のメロディが日本語詞で鮮やかに再構築されており、当時の日本のクラブシーンやカラオケで親しまれた。ジャマイカで生まれたリズムが、アメリカを経由し、日本のポップスへと着地する。一曲のメロディが国境と言語を越えて循環するこの現象こそ、優れた音楽が持つ「普遍性」の証明に他ならない。
🕰️ なぜ今聴いても「古臭くない」のか?
90年代の楽曲には、特有の「時代感」が強く出るものも多い。しかし、この曲は今聴いても驚くほど新鮮だ。その理由は、アレンジが極端にシンプルだからである。
- 過剰な装飾を削ぎ落とした、通称「Up Close and Personal」リディムの完成度。
- 派手なエフェクトに頼らない、二人の「声」の素材感。
- 恋愛という、時代に左右されないテーマ。
ミニマル(最小限)であることは、時代を超える武器になる。これは現代のR&Bリバイバルにも通じる理屈だ。
💡 結論:“誰もが恋に落ちる”という真理
「Everyone Falls in Love」は、90年代ダンスホールの枠を超え、世界市場に通用した「二度咲き、三度咲き」のヒット曲である。
1997年の誕生、2000年代の日本での再解釈、そして2016年の世界的な再評価。恋愛は時代を超え、だからこそこの曲も消えることはない。今夜も世界のどこかのフロアで、あの甘いサビが人々を包み込んでいるはずだ。
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