Juice WRLD (ジュース・ワールド)は、高校生の時に2Pacの映画「Juice」にインスパイアされ、当時『JuicetheKidd』名義でSoundCloudに曲をアップしたことからラッパーとしてのキャリアをスタートさせます。
その後、現在のJuice WRLDに改名し、2017年にEP「JuiceWrld 999」をSoundCloudで公開し、収録曲の「Lucid Dreams」は、250万回再生され、2018年に正式にシングルとしてリリースされました。
この曲は全米チャート2位を記録し、2018年に最もストリーミングされた曲となり、2020年にはSpotifyで10億回のストリーミングを達成するなど、彼の代表曲のひとつとなりました。
しかし、このヒットの裏には、サンプリング元のアーティストから高額なロイヤリティーを要求されたほか、別のアーティストから著作権を巡って訴訟を起こされたりと、何かと問題のある楽曲としても知られています。
ここでは、そんな彼の代名詞である「Lucid Dreams」の元ネタと訴訟問題について解説します。
Juice WRLD – Lucid Dreams (2017)
楽曲情報
Juice WRLD (ジュース・ワールド)
出身地 :イリノイ州シカゴ
生年月日:1998年12月2日
ジャンル:Hip Hop
没年月日:2019年12月8日 (21歳)
レーベル
Grade A Productions
Interscope Records
プロデューサー
Nick Mira
元ネタ・サンプリング
Sting – Shape Of My Heart (1993)
“Lucid Dreams” 元ネタ・サンプリング
Sting – Shape Of My Heart (1993)
元ネタになったのは、イギリス出身のシンガーSting (スティング)の「Shape Of My Heart」(1993)です。
この曲は、彼の4枚目のアルバム「Ten Summoner’s Tales」(1993)に収録され、アルバムはUKチャート、全米チャートで2位を獲得。
アルバムの5枚目のシングルとしてリリースされたこの曲は、発売当初はUKチャートトップ50にすら届かなかったものの、ジャン・レノとナタリーポートマン主演の映画「Léon」や映画「Three of Hearts」で使われ、Spotifyでのストリーミングは2億回を超えています。
また、この曲をサンプリングしたJuice WRLDの「Lucid Dreams」は、収益の85%をStingへ渡すことが明らかになっており、当初プロデューサーのNick Miraが怒りのツイートをしていました。(この投稿は現在削除されています)。
これに対し、Juice WRLDは「この曲は多くの人に良い影響を与えたから、そのことで動揺することはない」とツイートし、後に次のように明かしています。
何百万も失ったけど、何百万も稼いだ… この曲は多くの人に良い影響を与えたから、そのことで動揺することはない… もっと稼げるものは常にあるし、俺はそうするつもりだよ❤️❤️
あの曲は、お金やお金で買えるものよりも、はるかに高価なものだ... お金で触れることができるものよりも、とても感動的だよ。 あの曲は本当に命を救ってくれたんだ。 それで、みんなはこれについて「ないない、90%はこれ、90%はあれ」とか言っている。 あいつらはインチキ野郎どもだ。 違うんだ、Stingがいなければこれは歌にすらならなかった。 特にあのような曲で、みんなからの反響があれば、金でトリップすることはないんだ。
ポップパンクバンドから訴えられる
さらに、2019年10月には、ロックバンドYellowcardが「Lucid Dreams」が自分たちの楽曲「Holly Wood Died」のメロディーを盗作したとして、Juice WRLDを1500万ドルで提訴しています。
Yellowcard – Holly Wood Died
Yellowcardはフロリダ州ジャクソンビルで結成され、2000年からロサンゼルスを拠点に活動していたアメリカのロックバンドで、これまでに10枚のアルバムを発表し、2016年にグループは解散しています。
この裁判でYellowcardは、Robin Thickeのシングル「Blurred Lines」の著作権を巡る裁判でMarvin Gayeの遺産を弁護したことで知られる弁護士のRichard Buschを起用。
しかし、その裁判の結末を迎える前に、2019年にJuice WRLDが急死し、Yellowcardは哀悼の意を表しながらも、バンドと事務所は「この訴訟は追求されるだろう」と述べ「被告が訴訟に応じる期限」を2020年2月に延長しました。
しかし、この選択を巡って論争は激化し、弁護士のRichard Buschは次のように述べています。
私のクライアントは、確かに訴訟を続行することについて悩んでいますし、関係する光学的なものを理解しています。 しかし、この訴訟がこの悲劇的な出来事(Juice WRLDの死)の前に起こされ、被告全員(他に2人のライターと音楽出版社やレコード会社も含む)が、Yellowcardの作品の明らかなコピーと侵害と思われるものから、利益を得たために起こされたことを思い出すことが重要です。
その後、Juice WRLDの母親が彼の遺産の代理人になった後、Yellowcardは2020年7月27日に訴訟を取り下げ、弁護士とバンドは次のように述べています。
Juice WRLDの死に非常に同情しているだけでなく、彼の遺産の個人的な代理人として、悲嘆にくれる母親に対して本当に訴訟を追求したいかどうかを決定する時間が必要でした。
しかし、弁護士はバンドが考えを改めるのであれば、訴訟を再提起することも可能であるとも述べています。
おわりに
「Lucid Dreams」は、Stingから多額のロイヤリティーを要求されたほか、メロディーの盗作疑惑でYellowcardから訴訟を起こされるなど、ヒットの裏には様々な問題があったようです。
当の本人のJuice WRLDは、この曲の制作について「Lucid Dreamsを書いた日は、ごく普通の日だった」と語り、大ヒットするとは思ってもみなかったこと明かしています。
「Lucid Dreams」を書いた日は、ごく普通の日だった。 ファミリールームに座って、ステレオでビートをかけて、それに合わせて曲を書いていたんだ、だから特に変わったことはない。 今はもう曲は書かないし、たくさんの曲をフリースタイルで書いてるけど、1日で6〜7曲くらい書くことができるかな。 夜通しスタジオに通って仕事をすれば一晩で6、7曲はフリースタイルでできるだろうね。 「Lucid Dreams」が爆発的に売れる曲になるとは思ってもみなかったよ。 でもそのうちの1曲は、軽視していたわけじゃなくて、いい曲だと思ってたんだ。
この機会に、元ネタと併せて聴いてみてはいかがでしょうか。
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