1997年、ヒップホップシーンはある「神」の帰還に揺れた。Eric B. & Rakimとして黄金期を築き上げたレジェンド、Rakim(ラキム)が、5年という長い沈黙を破ってソロアーティストとして再始動したのだ。その復活の産声を象徴する一曲こそが、「Guess Who’s Back」である。
本稿では、この名曲の背後に隠された制作秘話やサンプリングの妙、そしてラキムという男が背負ったプライドについて深く掘り下げていきたい。
Rakim – Guess Who’s Back (1997)
沈黙を破った“第一声”の重み

1997年11月4日にリリースされたソロデビューアルバム『The 18th Letter』。この作品は、単なる復帰作以上の意味を持っていた。90年代前半、Eric B. & Rakimとしての活動が事実上停止状態となり、ラキムは表舞台から距離を置く時期に入っていた。当時のシーンはウエストコーストの台頭やギャングスタ・ラップの隆盛など、激しい変化の真っ只中にあったが、彼は安易に流行に乗ることを拒んだ。
後年のインタビューでは、「自分の音楽的ビジョンをより自由に表現したかった」「ヒップホップが変化していく中でも、自分の本質まで変える必要はないと感じていた」といった趣旨の発言を残している。
後年のインタビューでそう語った通り、彼は自分が戻るべき「形」を慎重に見極めていたのだ。その結果、この曲は懐古主義に浸るのではなく、ラキムの存在感を現代に再提示する強烈なステートメントとなった。
伝統と革新が交差するサウンドの正体
この楽曲の骨格を作り上げたのは、盟友でありプロデューサーのDJ Clark Kentだ。彼は90年代前半からラキムと信頼関係を築いており、彼の声を最も活かす方法を熟知していた。
特筆すべきは、サンプリングソースの選択だ。ジャズ/フュージョンの巨匠、Bob James(ボブ・ジェームス)の「Shamboozie」から大胆に引用されたホーンループは、攻撃的でありながら圧倒的な気品を漂わせている。ボブ・ジェームスといえば、70年代から数々のヒップホップ・クラシックの源流となってきた存在だが、あえてマイナーな「Shamboozie」を選んだ点に、二人の美学が宿っている。
Bob James – Shamboozie (1982)
派手な音圧競争に走るのではなく、あえて余白を残した重厚なビート。そこにラキムの低く落ち着いた声が完璧に重なることで、楽曲に「格」が備わったのである。
リリシズムに込められた「実力行使」の宣言
曲名の「Guess Who’s Back(誰が戻ってきたと思う?)」という問いかけは、リスナーへの単なる挨拶ではない。冒頭のライン「Once again back is the incredible…」(再び戻ったのは信じられないほどの存在だ)からも分かる通り、これは自身の威信をかけた実力誇示である。
当時、シーンの文脈にはNasやJay-Zといった新世代のMCたちの存在があり、その少し前にはThe Notorious B.I.G.が時代を象徴する存在として君臨していた。彼らの多くがラキムから直接的な影響を受けていることは明白だったが、ラキムはあえて言葉を荒げることなく、正確なライミングとフローで「源流はここにある」と静かに示してみせた。
彼は復活を「説明」するのではなく、マイク一本で「証明」することを選んだのだ。
文化的な位置づけと継承

ヒップホップの歴史は「Before Rakim / After Rakim」で区切られると言われるほど、彼の登場は革命的だった。その意味で「Guess Who’s Back」は、黄金期の遺伝子を継承しつつ、90年代後半以降の新たな潮流へと橋渡しをする重要な役割を担っている。
このシングルはCDや12インチアナログとしても広く流通し、特にUK盤では、リミックスや別バージョンが収録されたエディションも存在し、当時のファンたちの間で熱狂的に迎え入れられた。レア盤としても知られるこれらの音源は、今なおコレクターの間で語り草となっている。
色褪せないマスターピース
「Guess Who’s Back」は、単なるカムバックソングの枠を超えた「宣言文」だ。レジェンドが最前線に立ち続けることの難しさを、ラキムは圧倒的なスキルと揺るぎないプライドで跳ね除けた。
静かだが圧倒的、派手ではないが揺るぎない。 それこそがラキムというMCの本質であり、この曲がリリースから四半世紀を経てもなお、ヒップホップ・クラシックとして語り継がれる最大の理由である。
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