Janet Jackson (ジャネット ジャクソン)のキャリアを語る上で、1993年に放たれた「That’s the Way Love Goes」を避けて通ることはできない。この曲は、単なるヒット曲という枠を超え、90年代のR&Bシーンに「官能」という名の新しい風を吹き込んだ革命的な一曲である。
彼女の5作目のスタジオアルバム『janet.』のリードシングルとして、世界を驚かせたこの名曲の裏側を紐解いていく。
Janet Jackson – That’s the Way Love Goes (1993)
「地味な曲」が「確信」に変わるまで

この曲の誕生には、興味深い裏話がある。1993年4月14日にリリースされたこの楽曲を制作したのは、ジャネットの長年の盟友、ジャム&ルイス(Jimmy Jam & Terry Lewis)である。
当初、ジャネット自身はこの曲に対してそこまで強い手応えを感じていなかった。制作チームからデモを聴かされた際も「悪くないけれど、アルバムの一曲という感じね」と、リードシングルにするつもりはなかったという。
しかし、チームは諦めなかった。再度この曲を聴き直すよう彼女に促したのだ。ある夜、ジャネットはヘッドホンをつけ、静かにこのトラックに耳を傾けた。その瞬間、彼女はこの曲が持つ真の魅力——言葉にできないほど心地よい「ムード」——を理解したのである。彼女はすぐにタイトルを整え、楽曲の方向性を完成へと導いた。
囁きがもたらした、新しい「セクシー」の形
音楽的には、James Brown (ジェームス・ブラウン)の1974年の楽曲「Papa Don’t Take No Mess」のサンプルを核に据えた、極めて洗練された構成となっている。約100BPMという絶妙なミディアム・テンポの上で、ポップス、R&B、そして当時のヒップホップの感性が完璧なバランスで溶け合っている。
特筆すべきは、ジャネットのボーカルスタイルだ。それまでの彼女は、エネルギッシュで力強い歌声が印象的だったが、この曲では低めのレンジで、まるで耳元で囁くような穏やかで深みのある表現を選んだ。
歌詞に込められたのは、愛と欲望、そして親密な関係への誘いだ。特に「Like a moth to the flame…(火に飛び込む蛾のように)」というフレーズは、恋愛の熱と官能を象徴する詩的な一節として、今もなお語り継がれている。
James Brown – Papa Don’t Take No Mess (1974)
記録破りの大ヒットと、若き日のスターの影

「 That’s the Way Love Goes」は、商業的にも異常なほどの成功を収めた。アメリカのBillboard Hot 100では8週間にわたって1位に君臨。BillboardのR&Bチャートでも高い人気を示し、Hot 100 Airplayチャートでは10週間1位を記録するなど幅広い支持を得た。
その勢いは海を越え、日本、英国、ニュージーランド、オーストラリアといった世界中のチャートを席巻した。最終的に世界で300万枚以上を売り上げ、RIAA(アメリカレコード協会)からはプラチナ認定を受けている。1994年のグラミー賞では「Best R&B Song」を受賞し、批評家たちもこの楽曲を絶賛した。
また、ミュージックビデオ(監督:レネ・エリゾンド・Jr.)も、楽曲のイメージを完璧に視覚化していた。ロフトを舞台に、友人たちとリラックスした時間を過ごすジャネットの姿は、スターの鎧を脱ぎ捨てた一人の女性としての官能美を映し出していた。このビデオには、後に大スターとなるJennifer Lopez(ジェニファー・ロペス)がダンサーとして出演しており、未来のスターの萌芽を見ることができるのも、今となっては贅沢なエピソードである。
受け継がれるレガシー
この曲の影響力は、時間が経つほどに増している。複数のアーティストがこの曲について影響を語っており、特にブリトニー・スピアーズやネリー・ファータドが言及している。
Blender誌の「500 Greatest Songs Since You Were Born」やVH1の「40 Greatest Songs of the ’90s」などのランキングにも登場しており、この曲がいかに特別な存在であるかを物語っている。
成熟した音楽性への到達
「That’s the Way Love Goes」は、ジャネット ジャクソンが少女から大人の女性へ、そしてポップアイコンから真の表現者へと成熟を遂げた瞬間を刻んだ一曲である。
派手な演出や叫びはなくとも、ただそこにあるグルーヴと囁きだけで世界を征服できる。その圧倒的な自信と静かな官能は、30年以上が経過した今でも、決して色褪せることのない輝きを放っている。
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