2000年代後半、ラッパーのT-Painはオートチューンを使った曲を次々とヒットさせたことで、Kanye WestやLil Wayneなどのラッパーがオートチューンを取り入れ、現代のラップシーンに強く影響を与えました。
しかし、オートチューンの使用には賛否両論あり、ベテランラッパーJAY-Z (ジェイ・Z)が2009年にシングル「D.O.A. (Death of Auto-Tune)」で言及しています。
ここでは、この曲と元ネタについて解説します。
JAY-Z – D.O.A. (Death of Auto-Tune) (2009)
“D.O.A. (Death of Auto-Tune)” 楽曲情報
リリース日
2009年6月23日
レーベル
Roc Nation
Atlantic Records
プロデューサー
No. I.D.
元ネタ・サンプリング
Janko Nilović & Dave Sucky – In the Space (1969)
“D.O.A. (Death of Auto-Tune)” 元ネタ・サンプリング情報
Janko Nilović & Dave Sucky – In the Space (1969)
元ネタになったのは、トルコ生まれのピアニスト兼作曲家Janko Nilović (ヤンコ・ニロヴィック)の「In the Space」(1969)です。
幼い頃にピアノや打楽器を学んだ彼は、1960年にパリに移住してからはジャズクラブでピアノを演奏したほか、ポップミュージシャンやテレビ番組のアレンジャーとして活躍しました。
その後、音楽レーベルÉditions Montparnasse 2000(MP 2000)のプロデューサーとして、Impressionsというグループ名で一連のアルバムを発表し、テレビのドキュメンタリー番組で広く使われましたが、多くの作品は一般に販売されていません。
そんな彼のこの曲は、MP 2000からリリースされたアルバム「Psyc Impressions」(1969)に収録され、後にUPPM Recordsからリリースされたコンピレーションアルバム「Sample Sounds, Vol.1」(2019)にも収録されています。
“D.O.A.” のリリースで業界内で賛否両論が巻き起こる
JAY-Zのこの曲は、曲名の通りオートチューンをストレートに攻撃し、ラップ界の現状と進むべき方向性についてメッセージを送っています。
そんな背景もあり、この曲が収録されている彼の11枚目のアルバム「The Blueprint 3」(2009)にはオートチューンが一切入っていません。
また、ニューヨークのラジオ局Hot 97に出演したJAY-Zは、T-PainやKanye Westを賞賛する一方で、他のすべてのラッパーがオートチューンを使うことはないことを明かしています。
オートチューンを使っている人たちは、素晴らしいことをやっている。 T-Painは素晴らしいメロディーを作る。 Kanyeを聴けば、素晴らしいメロディーを聴くことができる。 彼の「Say You Will」や「Heartless」を聴くと、素晴らしいメロディーを聴くことができるね。 Lil Wayneの「Lollipop」も素晴らしいメロディーだった。 でもみんながこれをできないんだ。彼らにやらせればいい。 彼らは小さなニッチを見つけたんだから、先に進もうよ。 これは俺の意見だ。 みんなが同じように感じるかどうかはわからないけど。
この曲のリリースは業界内では物議を醸しており、JAY-Zのインタビューで名前が挙がっていたLil Wayneは「オートチューンを使ってラップゲーム全体が盛り上がっている」とJAY-Zの意見を真っ向から否定しています。
やめろ、やめろ。「Death of Auto-Tune」なんてものはないんだ。 T-Painは俺のダチだ。みんなのシングルに入ってる。 彼はみんなのシングルに参加していて、そのどれにもオートチューンが入っているんだ。 だから、彼とやる曲には必ずオートチューンが入っていた方がいいんだ。 気に入っているよ。 オートチューンを使い続けろ。オートチューンは死んでない。 オートチューンを使ってラップゲーム全体が盛り上がっているんだ。
西海岸のラッパーThe Gameもこの曲に対する 「I’m So Wavy (Death of Hov)」というディストラックを発表しています。
この曲の中でThe Gameは、JAY-Zはヒップホップ業界で時代遅れであり、彼が(当時)39歳というのは年齢は音楽シーンに残るには高齢すぎると考えており「D.O.A.?” No! T-Pain stays, old nigga goes」(D.O.A.? 違う!T-Painは残る、年寄りは去る)といった内容をラップしています。
今でこそ当たり前のように使われているオートチューンですが、当時のJAY-Zはオートチューンが広く使われているラップシーンの先行きを心配するも、若手からはベテラン扱いされ、煙たがられていたようです。
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